綾ちゃんは活動を開始した。
音大生の息子のコネで映画の配給会社の中継ぎを
やっているドイツ人を3人ほど紹介してもらった。
彼らはそれぞれきちんと対応して下さったが
商業上映はやはり難しい。
それでなくてもこのコロナ禍で新作映画は
長い順番待ちだそうだ。とても無名の外国映画が
横入り出来る状況ではないとのこと。
そうこうするうちに日本での映画ロードショーは
終わりを告げたようだった。
よっしゃ、ならば上映会をあたることができる。
手始めに地元ミュンヘンで日本映画の会をやっている
友好協会に問い合わせをしてみる。
だけど綾ちゃんなんてなんのコネもないただの主婦。
うーん、絶対誰も相手にしてくれないよね。
いやいや、諦めないど根性がここまで綾ちゃんを
連れてきたんだ!どこかにきっと手掛かりがあるはず。
ダメ元で総領事館にもメールを出してみる。
友好協会からも丁寧なお断りのお返事をもらう。
うーん、負けるもんか。
ボランティアの翻訳仲間に情報収集を頼んだところ、
「吉岡さんにばかり汗をかかせちゃいけない!
皆でやろう!」
と言ってくれた人がいて、オンラインで集まった人々が
一斉にうんうんと賛同の声をあげてくれた。
綾ちゃんの仲間達は一銭のお金にもならないことに
真剣に取り組んでくれる、本気の大人達だ。
こんなに沢山の真面目な友人達に囲まれて、
なんて綾ちゃんは幸せなんだろう。
泣きそうになった。
泣かなかったけど。