アンディに会った。もちろん偶然。
ご近所に住んでる(らしい)からいつ会っても
おかしくはない。けれどあれから3年経って一度も
彼を見かけたことはなかった。
やはり通勤電車の中だった。
夜のニュンフェンベルク城 白鳥
「アヤコじゃないか!久しぶり!
こっちへおいで!」
もちろん綾ちゃんは行かない。覚えてないの?
アタシはアンタと絶交したんだよ。
すると彼はこちらへやって来て
どすんと隣に座った。
「オレさ、あのあと大変だったんだけど何とか
アル中(だったの!?)から立ち直ったんだ。
今日はね市内に住む彼女に会いに行くんだよ。
最近アプリで知り合ったんだ。
どう、イケてるだろう?
見せられた携帯の画像は、いかがわしい男性週刊誌
のグラビアから現れて来たかと思わせる、露出も
露わなセクシー嬢だった。
こんな人、リアルにいるの??
しかも文無しのアンディと付き合っている??
綾ちゃんはようやく重い口を開いた。ひとこと。
「アンディ、仕事は?見つかったの?」
「いいや、まだだよ。今は生活保護を貰いながら
暮らしているんだ。」
ねぇねぇねぇと更に話しかけようとする彼を尻目に
すうーっと綾ちゃんは立ち上がった。
無言で席を立ち車両の奥へ移動し、おもむろに
イヤホンを引っ張り出して音楽を聴き始めた。
意思は通じた様だ。言葉にせねば何も伝わらないと
されるドイツでさえ、このくらいのゼスチャーは
通じたらしい。
いいかい、アタシはアンタと絶交したんだ。
アタシがあの日、あの寒い日に思いを込めて
放った言葉をアタシは一語一句忘れちゃいない。
一度でもカネを恵んだらそこで友情は終わり。
アタシが女王でアンタが乞食だ。
だから職安へ行きなさい。一生懸命働いていれば
必ずアンタを尊敬してくれる女の子に巡り会える。
だからもう乞食は止めろとアタシは言った。
3年間はそれなりの月日だ。綾ちゃんの生活も
行動も激変している。アンタはそれかい?
人はそうそう変わるものではない。自分の欠点を
見つめて克服していくことは並大抵に
出来ることではない。それは知っている。
多くの人が変わりたい、もっとマシな自分に
なりたいと望みつつ自ら仕掛けた罠に
自ら陥るさまをたくさん見て来た。
その一方でほんのわずかだが、自らを克服し
きちんとした幸せを手にする人にも
会ったことがある。
あの時綾ちゃんはそれでも心を込めて話を
したんだ、アンディ。
仕事をしよう、乞食を止めようって。
まだアンタとは絶交のままだよ。
クチなんかきいてやるもんか。
人は、やはり人というものはそう簡単には
変わらないものなのだろうか?
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