あれから1ヶ月経ったんだなあ。
姑(しゅうとめ)危篤の一報に綾ちゃんは翌日以降のすべての
予定をキャンセルして大阪行きのチケットを取った。大阪から
新幹線で岡山へ、岡山からは特急「いずも」に乗り換えての長旅になる。
飛行機から眺める関空の上空。海と山とがニッポンだ。
姑とは随分お会いしていなかった。何度か訪れようと試みたのだけれど
やはり病気の身には綾ちゃんが来ると気を遣ってしまうからと遠慮するよう
言われていたのだった。日本に帰省するときにはついつい失礼してしまって
いた。86歳の高齢でここ数年来の長患い。一年に数回救急車のお世話に
なるのが恒例と化している。しかし今回はもう望みがなさそうだ。
昏睡状態でお医者様から親族を呼ぶようにと言われた。
松江駅に降り立ったときに綾ちゃんが最初にしたのは花束を買うこと。
姑の好きな百合の花をいっぱい買おう。女学校時代その美貌を
「白百合の君」と崇められていたという彼女は百合の花が大好きだ。
母の日にもお誕生日にも綾ちゃんは毎年百合の花を贈っていた。
スーツケースをごろごろ転がせながら綾ちゃんが息子を従えて
その病室のドアを開けた時、出迎えてくれた舅(しゅうと)の
背景には美しい宍道湖の風景が見えた。
ああ、ここは出雲の国。松江だ。
宍道湖(出雲観光協会の写真より)
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