2019年9月30日月曜日

燕尾服が似合わない③〜嵐の予感

         
           最初から全てを見透していた訳ではない。

          嵐の予感のようなものを感じ取っていただけだ。

            
   3度目のセッションを終えた綾ちゃんの肉体は既に完璧なフルボディースーツと
   化していた。胸郭に続いて足を整えてもらった。
  足がぺたりと大地に吸い付き久々にグラウンディング=体幹に地球のエネルギーを
         吸い上げる感覚が蘇ってきた。そして側面にも。
   ここ20年来、そう、出産後これほど身体の調子が良いと感じたことは無い。
   信じられない!たった3回で!
      もはや施術者の木村氏の実力に一点の曇りも無いことは明らかだ。


         でも、少しだけ待って。この戸惑いの正体は何?


   これまで綾ちゃんは、カイロ、ドルンメソッド、その他様々の施術や講習を
   受けた経験がある。マッサージも各種然り。


  これまでに綾ちゃんが体験した療法とロルフィングはどこがどう異なるんだろう?


綾ちゃんの症例を先に説明すると、、、

綾ちゃんは上半身特に右側の凝りが慢性化していて、定期的に水泳と自宅での体操で普段未使用の筋肉とともにほぐして何とか乗り切っているという状態だった。それでも段々と辛くなって来るのでチャンスがあれば整体に飛び込んだりマッサージに行ったりを繰り返しの生活。これに関しては決定的なセラピーも信頼できる施術者にも出逢うことはなく、きっとこうやって一生少しずつ「古くなっていく」カラダをなだめながら過ごしていくしかないのだろうと諦めていた。

  何より上記の療法は、施術直後にはスッキリしても大抵2〜3日すら保たない。



じゃあ、ロルフィングでは何をするのかというと、、、

一般的なロルフィングの説明文をざっくり要約してみると、

   体(内蔵、骨組織)を包む筋膜のバランスを整えることによって
   重力との調和を図る、、、その結果持続的な効果を得られるというもの

                             、、、らしい。


 だが綾ちゃんは正直、こういう教科書的な説明ではよく納得することができない。


綾ちゃんは上記の説明文を読んで、さらに自分が何度かセッションを受けた感じから
次の逸話を思い出していた。




           オーダーメイドの燕尾服の専門店の話だ。

       
世界のトップオーケストラの指揮者達が御用達に選ぶ
       燕尾服の仕立て屋さん。


指揮者は聴衆の前で一人身体を振り動かす
肉体労働者。
しかもお客様に見せるのはほとんど背中ばかり、
という極めて仕立て屋さん泣かせの職業!

        そのお店は最上の素材と人材を駆使して世界に一着しかない
    オーダーメイドの燕尾服を仕立てる。しかし、他の一流店と決定的に違う点は
      依頼人の「ジャストフィットに作らない」ところだというのだ!


多くの洋装店が、お客様の体型や癖に合わせたベストフィッティングを目指すのに対し、その店は「指揮者かくあるべし!」という職業の求める美的基準が優先でその器に「いかに中身を無理なく置くか」を追求する。
そしてクライアントはそのシェイプに惚れ込み、自らも世界の一流指揮者の名に恥じない外見たろうと努力(不節制の自重や姿勢矯正とか)を始めるというのだ。


綾ちゃんのこの喩えはおそらくロルファーの方々からは異論があがることと思う。


あるいは、もしかしたら綾ちゃんのロルファーが腕が良すぎた?のかもしれない。

あまりにも体調が急激に良くなった綾ちゃんは、しかし同時に最上の燕尾服に身を包まれた戸惑いも大きかった。哀しくなるほど自分という「中身」の狭さ醜さを突き付けられる「正しき器」が目の前に立ちはだかりそして綾ちゃんを包み込んでしまった!
こんなときこそ慎重に行動していなくっちゃと思うようになっていた。
こういう時、綾ちゃんのカンは実に良く働くんだ。



             外側にふさわしい中身になれる?



狭くて弱くて哀しい綾ちゃんの「自己と向き合う旅」が始まった。おそらくそれは必然の流れで綾ちゃんの思いも依らぬ大きな意思の配慮であったに相違ない。


               誤解しないでほしい。

       綾ちゃんはこれからお話する自分だけの「事件」が起こったからこそ
          ロルフィングを真剣に本物認定したのだから。

           綾ちゃんはあの時ぼろぼろだったんだ。
        ただ自分でそれを認めるのを恐れていただけだったんだ。

          「気づき」へのチャンスが目の前にあった。





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