2013年3月13日水曜日
プロフェッサーのお友達 ⑬
そしてまたもう一通の手紙が届いた。
ドクター宛てだけれど私の事がいっぱい書いてあると言われて見せてもらった。
ラルフ君のママからの手紙。
みんな感謝の言葉と気持ちでいっぱいだ。クリングさんにしてもラルフ君に
しても色々な事が、大切な事が、上手くいかなかった。それなのに私たちの
良い面をちゃんと見てくださってお礼の言葉を口にしてくださる。
ラルフ君は自宅で病院の仕事内容を事細かに語っていたんだなあ、
いいご家庭なんだなあ。目に浮かぶようだ。私への感謝の言葉として
ラルフ君のお母様はまず、私がラルフ君をファーストネームで
呼ばず名字で呼んでいた事を挙げてくださった。
『うちの息子を「一人前の大人」として扱ってくださった。』って。
そう、ドイツでは学校に通っている学生、生徒はまずいつでもファーストネームで
呼ばれる。
でも彼は高校を卒業して就職のための訓練をしている訳だから勝手に「ラルフ君」と
呼ぶのは止めて、本人に選ばせてみた。どっちで呼ばれた方が良いですかって。
そしたら彼が自分で言ったんだ。名字で呼んでくださいって。私はあのとき内心、
「おお、やるじゃない。」って思ったもの。
それからお誕生会の事とかリルケの本をプレゼントした事とか仕事の時
ずっと一緒にいた事とか、本当にいっぱい私の事が書いてあった。
嬉しいよ、私も、ラルフ君。
(つづく、かな?)
ご存知北京ダック。本場のものはこのようなもの。
ちなみにドイツにはまずどこの中華料理屋さんにも
ペキン エンテという料理があります、が、ただ鴨肉
(あひるじゃないんです)を
ぶつぎりにして甘ったるい醤油ソースをかけただけのものです。
お値段も20〜30ユーロくらい。ううん、いいのかなあ?
2013年3月12日火曜日
防人の歌 東北大震災に寄せて
教えてください。
この世に生きとし生けるものの
全ての命に限りがあるのならば
海は死にますか
山は死にますか
風はどうですか
空もそうですか
教えてください
私は時折苦しみについて考えます
誰もが等しく抱いた悲しみについて
生きる苦しみと
老いていく悲しみと
病の苦しみと
死に行く悲しみと
現在(いま)の自分と
答えてください
この世のありとあらゆるものの
全ての命に約束があるのなら
春は死にますか
秋は死にますか
夏が去るように
冬が来るように
みんな逝くのですか
海は死にますか
山は死にますか
春は死にますか
夏は死にますか
愛は死にますか
心は死にますか
私の大切な故郷もみんな
逝ってしまいますか
SAKIMORINOUTA by Masashi Sada
2013年3月8日金曜日
プロフェッサーのお友達 ⑫
次の週、私は一通の手紙を受け取った。クリングさんから。
クリングさんは良家の由緒正しいお嬢様だ。ミュンヒェンのご自宅の他に
あちこちに別荘をお持ちでプロフェッサーは彼女のウイーンの別荘にある
ベーゼンドルファーのグランドピアノ(最高級!)でいつも練習させて
もらっていたそうだ。
そんな彼女の手紙らしい、クリングさんオリジナルのチェンバロの透かし模様の
はいった封筒と便せんだ。アメリカに帰国前にお礼の手紙をしたためてくださった。
とても丁寧な言葉でただただ感謝の言葉が連ねてある。誠心誠意の治療とこの上ない
新しい友情にって。
言葉もない。たった数日のおつきあいだったけれどもう何年も識っていたかの
ように仲良しになれたのに。そんな大切な関係も治療の結果がついて来なければ
おしまいなのだ。
実は経験上、この危険性を予測しないでもなかったから、恐れていたから
裏目に出てしまった今回の失敗が悔やまれてならない。でもどうしようもない。
たった一週間のミュンヒェン滞在だったのだ。集中治療も本人のたっての希望で
らしたのだ。
(つづく)
清涼油。ちっちゃいちっちゃい小瓶です。ハッカ油で色々用途があります。頭痛の時に
うなじやこめかみに塗ったりね。筋肉痛や自然の虫除けとしても。
2013年3月6日水曜日
火星人がやって来た!
火星人がやって来た。
それは昨日の事。お昼休みが終わって午後一番の患者さんがやって来たんです。
その方とドクターと三人でお茶を飲みながら歓談していた。
「歓談」と言っても話題は重い。
ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤を止めたい患者さんが鍼治療の成果が
出ない事で焦ってらした。治療費もかさむからね。例によって薬物中毒から
抜け出すのは容易ではない。それもまだ3回目の治療だ。プライベート保険に
加入していない自払いの患者さんなんだけど、出来れば性急に
結論を出さずにじっくり頑張って続けて欲しい。そんな話をゆっくりと
していた。
そのとき、入り口のドアが開いた。
そしてその、「火星人」が入って来た!
だいたいこんな感じ。
多分、本当は人間じゃないかと思う。でも、とっても痩せていて手足が異常に長い。
目玉がぎょろりとしていてアタマのてっぺんがはげている。あろうことか
ハゲ頭にぐるりと飾り紐を巻き付けている。
きょわい。どうしよう。そう思って凍りついていたら、「火星人」はおもむろに口を開いた。
火星人『鼻に出来たポリープが炎症を起こして、上の(階の耳鼻咽喉科の)医者に手術す るしかないって言われたんだけどお宅の治療で治りますかね。』
私 『えっと、どの程度進行しているかにもよるんですけれどある程度の効果は期待で きると思いますよ。ねえ、先生。』
恐ろしくてしようがない私はいきなりドクターに振った。
先生 『いや、ポリープを完全に治すというのはうちでは不可能ですよ。』
はああ!???見ればドクター、顔面蒼白。私に負けず劣らずびびっている。
火星人『いや、完全に治らなくても手術をしなくて良いくらいまで症状が改善すれば良い んです。全然無理ってわけじゃあないんでしょう?』
先生 『いいですか、うちの治療費はとても高いんです。プライベート保険に加入してな い人が払える額ではない。見てください。これがうちの料金表です。』
火星人『(料金表を見て)なんとかなりますよ。何回くらい鍼治療に通えば
良いんでしょうね?』
先生 『自払いの患者さんの場合、大抵は2〜3回試しにやって来て
効果が感じられなければすぐに止めてしまうものなんですよ。』
先生、何が何でも火星人が治療に来るのを阻止しようとしている。自分の発言が
たった今、ステロイド中毒の患者さんを励ました言葉を全て打ち消している事に
思いも寄らない様子だ。
もちろん、ステロイドの患者さんも唖然&呆然として成り行きを見守っている。
火星人『ううん。今日はこれ以上時間が取れないからまた質問しに来ます。明日の
この時間でもいいですかね。』
先生 『これ以上の質問は問診と言う事になるので請求書が発生しますよ。きちんと
予約を取ってください。一週間以上前もってね。』
火星人『来週の予定はわからないなあ。フレキシブルタイムで働いてるから。じゃあ、
電話します。』
そう言ってうちのパンフレットを持って帰っていった。
あとから冷静に考えるとこの時の先生の対応はもう無茶苦茶だし失礼千万この上ない。
だけど恐怖に震え上がって気も狂わんばかりに怯えていた私は心から安堵のため息を
ついた。
もし、彼が本当に地球の人間ならば、ドクターのあまりの対応に傷ついて、
もう、うちで予約を取ったりしないと思う。
そうだったら本当に、本当にごめんなさい。地球人だろうが宇宙人だろうが
何だろうが本来我々は患者をえり好みしてはいけない立場の人たちなんです。
ドクターはやってはいけないことをしてしまった。罪深い医者なんです。
私も同罪。だけど何度思い返してもやっぱり怖かった。恐ろしかった。
火星人さん!ごめんなさい!
お願いだから、このことで怒って地球を滅ぼしに来たりしないでください。
もう一つ心配なのはステロイドの患者さん。
我々への信頼を失ってしまってないかなあ。(私が患者ならアヤシい。)
ぐすん。ああ、でもホントにこわかったんだよおお。
2013年3月5日火曜日
プロフェッサーのお友達 ⑪
そしてクリングさんもそれを最後に来なくなった。
今回の治療は彼女には「酷」だったのだ。「瞑眩(好転反応)」がもろにきた。
高齢、集中治療、頭部の疾患、長い病歴、全てが裏目に出た。電話口の彼女は
話していられないほどひどい状態だった。耳も遠く、ほとんど会話にならない状態の中で
それでも感謝の言葉と短い間に出来た友情を大事にすると伝えて来た。
最初から一週間の予定だったが彼女は四日目にすでにダウンした。
クリングさんの電話口でのあまりにひどい状態に私も先生も二人ともショックを
隠せなかった。ついついあれがいけなかった、これが悪かったと口にしてしまう。
(なぜか我々はこういうとき家具を移動してお部屋の模様替えを計る。)
こういうときって空気がどんよりして何かしら
邪悪な幕にからめとられてしまったような感覚に
陥ってしまう。
(つづく)
画像検索でトイレットペーパーを探してみたらペーパーの向きは間違いなくこうだった。
正しいよね、これで。でも私が病院のトイレで見る度に逆向きになっているんだ。
で、上の写真のように訂正しておくと必ずあとでひっくり返される。
どういうこと?
2013年3月3日日曜日
プロフェッサーのお友達 ⑩
翌日、クリングさんは私に贈り物をしてくれた。
それはハンス カロッサの「現代におけるゲーテの影響」。
もちろん私は若い頃読んだ事があるし本も(全集の中の一冊として)
持っているけれど久々にお目にかかった。
ドイツ語の本はわざわざ持ってくる必要なしと
判断して日本の実家に置いてあるのだ。
最近はお固い文学なんて滅多に読まなくなっちゃったし
きゃあ、本当に懐かしい。
クリングさんも娘のようにはしゃいでこうおっしゃった。
『ねえねえ、聞いてくれる?昨日、実家に帰ってから書庫で
なんという事もなく一冊の本を手に取ったの。自分が何を
手にしたのかなんて意識していなかったのよ。そしたらこの本に
出逢ったってわけ。昨日あなたとドイツ文学の話をしたあとで
この本を偶然手に取るなんて、なんというものすごい「神の導き」
だろうと思って興奮しちゃったのよ。
私は誰も住んでいないあの家を整理しに来た訳だから書庫の本も
処分しなくちゃいけないの。お願い、もらってくれる?
あなたと私の友情の記念に。』
もちろんです。私も嬉しい。ここにこうして勤めて色んな人と
巡り会って、それによって確実に互いの時間が、人生が
豊かになっていく。プロフェッサーとの出会い。あなたとの出会い。
大切にしますね。クリングさん。
(つづく)
インゼル社の美しい装丁。これと同じ本をいただきました。
2013年3月1日金曜日
プロフェッサーのお友達 ⑨
『ねえ、あのリルケは誰の発案だったの?
ほら、ラルフ君のお誕生日に贈った本のことだけど。
中国医学の病院にポンと置かれた一冊のリルケが
ひときわ印象的だったのよね。』
クリングさんの質問に答えて私は昔自分がドイツ文学をやっていた事、
ゲーテからカロッサ(20世紀ドイツの作家)に至るロマンティックの系譜に
当時興味があった事などをつらつらと話した。
『ねえ、じゃあ、ゲーテのファウストの中で
一番印象的な文句を言ってみて。』
困ったな。じゃ、うちの主人が座右の銘にしているやつにするか。
ちょっとありきたりっぽいけど。でも大切なテーマだからね。
絶えず努力して励むものを、われらは救うことができる
„Wer immer strebend sich bemüht, den können wir erlösen“
そうそう、これは天使が歌うとこなんだよね。ううん、なんだかうっとり。
クリングさんとはもう、何十年も昔から色んな話をして来たかのように
気が合った。こういうのをシンパシーっていうんだろうな。
(つづく)
今日、また人にいえない失敗しちゃいました。
お昼休みの直後、患者さんにお灸してたら突然睡魔が • •
眠ると危ない!(火を扱ってるからね)
慌てて紅花油(タイガーバームよりもっと効く)をうなじに
塗ろうとしたら頭からかぶってしまった。真っ赤っかで
べとべと、お肌は火傷のようにひりひり。高価なものなので
大切に使うようにいわれてるんだけどね。ごめんなさい。
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