2013年3月3日日曜日
プロフェッサーのお友達 ⑩
翌日、クリングさんは私に贈り物をしてくれた。
それはハンス カロッサの「現代におけるゲーテの影響」。
もちろん私は若い頃読んだ事があるし本も(全集の中の一冊として)
持っているけれど久々にお目にかかった。
ドイツ語の本はわざわざ持ってくる必要なしと
判断して日本の実家に置いてあるのだ。
最近はお固い文学なんて滅多に読まなくなっちゃったし
きゃあ、本当に懐かしい。
クリングさんも娘のようにはしゃいでこうおっしゃった。
『ねえねえ、聞いてくれる?昨日、実家に帰ってから書庫で
なんという事もなく一冊の本を手に取ったの。自分が何を
手にしたのかなんて意識していなかったのよ。そしたらこの本に
出逢ったってわけ。昨日あなたとドイツ文学の話をしたあとで
この本を偶然手に取るなんて、なんというものすごい「神の導き」
だろうと思って興奮しちゃったのよ。
私は誰も住んでいないあの家を整理しに来た訳だから書庫の本も
処分しなくちゃいけないの。お願い、もらってくれる?
あなたと私の友情の記念に。』
もちろんです。私も嬉しい。ここにこうして勤めて色んな人と
巡り会って、それによって確実に互いの時間が、人生が
豊かになっていく。プロフェッサーとの出会い。あなたとの出会い。
大切にしますね。クリングさん。
(つづく)
インゼル社の美しい装丁。これと同じ本をいただきました。
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