2013年3月28日木曜日
夫と妻と犬と私 ⑧
『でも私が離婚を決意したのは彼が子供を愛さなかったせい。』
『あなたもご覧になってお分かりの通り、彼はありとあらゆる才能に恵まれて人を惹き付けずにはいられないわ。しかもほとんど何も努力らしい努力をしていないの。
ああいうただの天才には色々と理解できない事がたくさんあるのよ。
例えば彼は子供を特に望まなかった。彼は「愛」という言葉がわかっていないのよ。』
「愛」というのは動詞であって名詞ではない、といいますよね。そこにあるものではなく行為によって実感するものなのだと。
『そう、そうなの。まさにそれだわ。パーシーは彼のように優秀な秀才ではなかったわ。でも十分普通によい子だったし何の問題も無かった。けれどあの人はどこまでも
子供に無関心だったしパーシーが赤ちゃんの時からただの一度も抱きしめたりかわいがったことすらないのよ。』
ええ〜!!なんてかわいそうなパーシー!そうだったのか、おまえさん、苦労してたんだあ。だってパーシー、この数週間毎日5時起きでご老人たちの運転手やってるじゃ
ない。
『次に妊娠したとき中絶を強要されるのが怖くて5ヶ月になるまで夫にはだまっていたの。彼は医者だから堕胎させてくれる医者仲間なんていくらでも知り合いがいるもの。
娘の事もやっぱりかわいがりはしなかったわ。でもいいの。私はその頃もう、離婚に
ついて考え始めていたから、そして夫を大切に思う気持ちがもはや尽きてしまっていた
から愛情を注げる他の対象が欲しかったの。』
ううん、そこらへんは感性がいまいちわかったようなわからんような気もするが
とにかくそういうことなんだ。
『パーシーが10歳になった時、進学を控えてこういったの。
ママ、ママがパパと離婚しないなら僕は寄宿舎のある学校へ行くよって。
その一言で踏み切ったの。彼の方は離婚したくなかったんだけれど私の方で
押し切ったわ。彼の4人の妻のうち子供を持ったのは私だけなんだけど子供を持った 事もあのとき離婚した事も全部正しい選択だと思っているわ。こうして時々彼に会う と今は古い友人のような気持ちで会えるけれど「妻目線」で彼を見るとその度に
ああ、あのとき離婚して本当に良かったって心から思うわ。』
ドイツの小学校は4年生まででこちらの子供は10歳で重大な進学の選択を迫られる。
そんないたいけな頃に大変な危機を経験した訳だ、パーシー、おまえさんは。ううん、
すっごい同情しちゃったよ。それでも大人になった今、きちんと父親に接しているし。
運転手なんかしちゃって十分役に立つ息子じゃないの。
(つづく)
フィテウマ へミスファエカムという難しい名前の花
ガルミッシュに咲いている。
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