2013年2月28日木曜日

プロフェッサーのお友達 ⑧





    クリングさんはプロフェッサー同様、自分にもそしてきっと他人にも
   厳しく生きて来た人だった。プロフェッサーと同じ病気だと聞いていたが
   彼よりもはるかに重症だった。そしてそれ以外にもたくさんの既往症をお持ち
   だった。



    例えば乳がんの手術を受けて片方の乳房しかないこと。



    私は片方しか乳房をもたない患者さんをこれまで何人も見ているから
   さして驚かないけれど、そりゃあ、ラルフ君にはショックだったよね。



    例えば全身の皮膚に老人性疣贅(ようじんせいゆうぜい=良性のいぼ)が
   かさぶた状に広がっている。



    私は基本的にゴム手袋をしない人なのだけれどこの時は迷った。少しでも
   迷ったらドクターに相談するのが常だが、この時は自己判断で自分は素手で
   ラルフ君にだけ(彼の気持ちのために)させた。でも彼はもう、引きまくりで
   患者さんに触れるのもこわごわだった。そんなんで上手くいくはずもない。



    もうひとつ、重大な危惧がある。例の「瞑眩(好転反応)」だ。
   お年寄りに出やすい。
   集中治療の際には特に危ない。


    そんなこんなを忘れていた訳では決してなかった。



(つづく)


ご存知タイガーバーム。これもうちの病院で大活躍。ドイツでも売ってますけど高い!

2013年2月27日水曜日

プロフェッサーのお友達 ⑦




    ラルフ君はお誕生日を最後に働きに来なくなった。




 お誕生会のあと、実は明日から3週間家族と休暇でイタリアに行きます、ってさ。
でも3週間後に戻って来るかどうかはわからない、労働局の相談窓口にまず行くから、
ってやんわり「辞めます」とほのめかした。


    3ヶ月の労働予定がたった10日間で終わってしまった。




『やっぱり無理だって、病院で働くのは。最初からそう思っていたのよ。』
                              奥様が言った。




 実は彼はうちで実習を行う前、老人ホームへ研修に行った。でもやっぱり
一週間しかもたなかったらしい。心優しい彼は何か、人の役に立てるような
福祉関係の仕事をしたいと考えているのだが彼にとってはとてつもなく
大変な事だったそうだ。



 ドクターはうちの病院ならみんな、ラルフ君の弱点を知っているから彼も
居心地いいんじゃないかと思ったみたいだったけど、なかなか上手くいかない
ものだなあ。



 私も、彼が長く続くとは思っていなかったんだけれど、どこへ行くにしても
「指圧」を知っておけばものすごく役に立つんじゃないかと思ったんだ。
だけど、クリングさんの「ダメだし」は効いたからなあ。



 そう、クリングさん。
彼女はそんなラルフ君の顛末を全て静かに見守っていたのだった。



どうでもいいんですけど、こういう「胸毛」のある人って西洋人に多いんですよね。
で、おなかにお灸を当てると毛を燃やしちゃう事があるんです。(誰にも言えない失敗)
              (写真は映画HOLIDAYのジュード ロウさん)




(つづく)
  

2013年2月26日火曜日

プロフェッサーのお友達 ⑥




           ラルフ君が来始めてから今日で10日目。
          そして今日は彼の20回目の誕生日でもある。



 ドイツでは誕生日を迎える本人がケーキを持って来るしきたり。彼は冷凍食品の
ケーキを下げてやってきた。ふふふ。私も彼にプレゼントをこっそり持って来たのさ。
ドクターの顔を潰さないよう、参加させてあげる。これにお花をつけて、私たち
二人からの贈り物ってことにしませんか?(よ!さすが名アシスタント!)


 ということで先生にお花代を持ってもらい準備万端。お昼休みに患者さんを
巻き込んでみんなで一緒にお昼ごはんをとりながらハッピーバースデイを唄う。
(先生、実は歌がお上手。)ラルフ君、こんな大げさな事になるとは
思っていなかったらしく恥ずかしがりながらもものすごく喜んでくれた。
彼にとって、ここで働く事ってとっても大変な事なんだ。みんなで励ますよ。ラルフ君!



 私はラルフ君に一冊の本をプレゼントした。



        リルケの『若き詩人への手紙』




 この本は若者の必読の書。詩人志望の(世間から認められずに苦しんでいる)若者に
リルケが手紙で語りかけるという(架空の)作品。20歳の誕生日を迎えた
職業研修中の彼にぴったりだと思ったんだ。



(つづく)





2013年2月25日月曜日

プロフェッサーのお友達 ⑤



今日も飲みました。胃薬。最近ストレス多いかな。






       あちゃ〜!って感じだった。クリングさん(仮名)のダメだし。



 ドイツ人ってきびしいなあ、というよりまあ、はっきりものをいうなあ。
教育的配慮なんだかよくわからんが、クリングさんは指圧のあと、わざわざラルフ君に
向き直って


  『あなたの指圧は全然気持ちよくもないし不愉快なだけでした。』


                   なんて言うんだもん。こっちが引いちゃうよ。


 ただ、私の事は異様に気に入ってくれて(プロフェッサーから噂でも聞いてたかも?)
たくさんお話した。音楽の話、プロフェッサーとの友情。文学の話。アメリカの話。
ご主人の話。私も彼女といると時間があっという間に経つように感じられる。




 ラルフ君はというとデビューでいきなり挫折して指圧引退してしまった。
ということでお灸要員となり、最初はこわごわだったが、厳しいクリングさんとも
少しずつ打ち解けていった。



(つづく)








2013年2月23日土曜日

プロフェッサーのお友達 ④ 



 ラルフ君にどたばたしながら仕事を教えているうち、彼女がやって来る日が来た。




             プロフェッサーのお友達だ。




 彼女はドイツ人だった(よかったあ!英語しゃべらなくて済んだよ!)。
アメリカ人の歯医者さんと結婚なさっているチェンバリストでプロフェッサーとは
幼なじみ。ピアノの学友でもあるらしい。つまり、やっぱり七十歳以上の方。
ミュンヒェンの実家を整理するために里帰りだそうだ。



      ラルフ君は彼女の治療から「指圧デビュー」だ。 



 実は当初、我々は彼にそこまでさせる気はなかった。が、彼の研修期間は
3ヶ月にもなるという。だったらゆっくり教えてみようか、ということになり
(治療に対してお金を払っている)患者さんに対して決して迷惑をかけない形で
少しずつ始めてみる事にした。
時間に余裕のある患者さんを選んで前もって説明する。ラルフ君と私とで
指圧を行うがラルフ君がやった分は必ず私がもう一度「復習」として同じ動作を
繰り返す。つまり、患者さんにとっては指圧を二度受けられる「オイシい」話に
したのだ。
もちろん前もって二人でみっちり練習したあとのことだ。



       ところがいきなり最初から挫折した。



       忘れてた。プロフェッサーのお友達は、いや、
       プロフェッサーのお友達も、というべきだ。
       彼女も音楽家だった。プロのね。



       決してハンパは許さない人だった。



(つづく)
  

これがチェンバロ。古楽器です。こりゃまた綺麗だねえ。




2013年2月22日金曜日

プロフェッサーのお友達 ③



やっぱり私にお鉢が回って来た。



ラルフ君(仮名)の教育係だ。



20歳の彼は背が高くって金髪、鳶色の瞳。でもとってもシャイな青年だ。
ただお母様の話だと、学習障害の彼はかなりひとつひとつの飲み込みが遅いらしい。     



実際、かなり大変だ。私の仕事はとにかくドクターの補佐をする事なのだが   
ファミリー的な(つまり「なあなあ」と言うやつだ)環境なので実に守備範囲が広い。
さて、教育ってどっから始める?

 
私が毎日のルーティーンワークで一番大切だ、と認識している仕事は診察室の  
メイキングだ。(意外?)                           

 


 病院業務の全ての流れを潤滑に行えるかどうかは4部屋ある診察室をいかに     
さりげなく、でも迅速に患者さん受け入れO.K.状態にするかにかかっている(と思う)。これ一つが私の仕事ならもちろん問題ないけれど四方八方に目を凝らしながら    
他に山ほどの仕事を抱えつつ頭の中のプライオリティに従って行動しなきゃならない  
しね。もちろん、この優先順位がドクターのそれと合致していなくてはならない。   
そしてどこまで「先回り」できるかでアシスタントの優秀さが計れる、ってなもんだわ。(自慢??)        



よおし、最初の「教育」は診察台のメイキングだ。これだけでもラルフ君にマスター 
させればずいぶん「役に立つ子」ってことになる。                 



いやあ、大変だったわ。彼に仕事を教えるのは。
でも私も人の親。母としてのプライドみたいなものがあるもんね。
ハンディキャップのある子と接するのには自然、力がはいっちゃう。



(つづく)                                   




うちの診察台ってこんな感じ。
普通だよね。



2013年2月21日木曜日

プロフェッサーのお友達 ②





      プロフェッサーはアメリカ在住の友人をこちらに寄越したいと
     言って来た。




 ひええ〜!アメリカ人の女性?どうしよう?英語で話す事になるのかしら?
英語なんて学校時代にやったきりでもう全然だめ。 と、いうよりうちのドクターが
英語だめの人なのでこっちに色々とお鉢が回って来るかも • • • 。と勝手に
あれこれ皮算用を始めた私。何でも1週間だけミュンヒェンに滞在するんだって。
プロフェッサーと同じ病気で苦しんでいらっしゃるらしい。
やっぱり毎日うちに通って来るって。



 ああ、来週も予約でいっぱいだあ、とこっちがめまいでくらくらしていたら、
先生が、

 『来週からもう一人助っ人が来るからね。楽になるよ。』

                         と、おっしゃった。



 え、本当?嬉しい!やった〜!と思いきや、誰が来るのか名前を聞いて
かなり心配になった。「新顔」と言うのは私も知ってる患者さん(!)だった。
20歳の男の子。職業研修で来るんだって。
私は彼の顔を知ってるくらいで全然話をした事もないんだけど、病歴は
知ってるからなあ。


 
 彼、ラルフ君(仮名)は学習障害(発達障害のひとつ。知的•発育障害はなく学習に
問題がある)の子で長くうちに通っている。高校卒業資格が取れなくて2回チャレンジした。今年やっとで合格して(エライ!!)お母さんと大喜びしてらした。
これから職業選択が始まるのだ。ここらへんの過程は日本とはずいぶん違う。
うちの子たちはまだその段階ではないので詳しい事は残念ながらよくわからない。
私の知る限りラルフ君はおとなしくて優しそうな子だ。


    でもこれは「お仕事」だ。
   (あ〜あ、きっとこれもドクターにかかっちゃ、「治療」の
    一環ってことなんだろうなあ。)



                大丈夫なの??



(つづく)




 今回、共同購入で初めて買った日本食用のお米です。でも • • •。



           MISAKOさんって
             

            明らかに中国人!?



             MISAKOさんって • • • 誰?