2012年12月12日水曜日

シャボン玉 飛んだ  ①




   病院勤めを始めて二週目か三週目だったと思う。
  



 お昼休みに先生がにこにこしながらおっしゃった。


『これからちょっと出かけてきます。実は私の大親友が今日、退院するので
お迎えに行くんです。すぐ近くのイザール病院だからね。』



 先生のドイツ語はものすごい中国語なまりですごく聞き取りにくい。今はずいぶん
慣れたけれどあの頃はドイツ人の患者さんと話をするよりしんどかった。
このときも5〜6割しかわかっていなかった。ものすごい語彙力と表現力を
お持ちだとあとになってわかったんだけどね。


 先生がお出かけになったあとで奥様がお弁当を持っていらっしゃった。
『あれ、吉岡さん、主人はどこ?』


 そして奥様のドイツ語は輪をかけてわからない。当時はほとんどわからなかった。
奥様も実はきちんとあらゆることをドイツ語で表現できるしドイツ人の前でも
対等に話が出来る。いまだにドイツ語だと萎縮してしまう私とは雲泥の違いだ。
夫婦喧嘩もドイツ語でしょっちゅうしている。これは私たち夫婦には決して真似の
出来ない芸当だ。


私 『ええっと、ドクターはお友達を迎えに行くとかおっしゃってどこかへ
  お出かけになられましたよ。』



 あ〜あ、そうだった、そうだった。そう奥様がおっしゃってからしばらくして
先生はお帰りになられた。




 そして私は彼と出会った。ハルさん(仮名)と。



    先生の大親友とはドイツ人のおじいちゃんだった。 




(続く)

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