2012年12月3日月曜日

プロフェッサー   ⑧





    『本物志向』の人だ。完璧主義の一面でもある。




   お寿司は日本人が握ったものしか美味しくないだろうか?
   尺八は日本人が吹かなきゃ変だろうか?



 私自身は日本人のくせして西洋のものばかり追いかけて来た人間だ。
嘘の「ドイツ語」を話し、翻訳と言う名の偽のドイツ文学を紹介し
わかったような気にさせちゃったりする。
私の場合ドイツ語はまだ少しは出来るからいいけど他の言語に至っては
それがどこまで正確かどうかもわからない。



 ものすごく微妙で難しい問題なんだけど私は異文化を理解する
人と人との「架け橋」を目指して来たものとして、出自にこだわらない
立場を尊重したいのだ。「本物」になれる人は滅多なことではいないけれど
最初から国籍や生まれ育ちで排除しないで欲しいと思う。




 プロフェッサーはその意味で私とは正反対の「極」にいる。
そしてそうやって自分を苦しい立場に追いつめてきた。




 彼はご自分の本領であるクラッシック音楽において徹底したオリジナル主義の人で
ドイツの音楽はドイツ人にしか弾けないし理解できない。さらには作曲家と同じ場所
同じ時間に呼吸して来た人間にしか曲を理解できないのだという信念をお持ちのようだ。(同じ理由で東洋医学の治療は中国人からでないといけないとお考えでうちにいらしている。)



 つまり彼の意見に従えば現在活躍しているピアニストは全員「失格」だ。
その持論をご自分の生徒さんに隠しもしない。努力する前から「失格」の
烙印を押されては学生は面白くもない。かくして「アタマの固い頑固親父」と
音大でみなされ孤独な想いを抱えていらっしゃった • • • らしい。
そんな話を彼の口から聞いた。




 彼の病気の根底にはご自分の信念と生き方と、それを貫き穿つ際に出来た傷が
あると思う。





 人は自分の生き方なんてそうそう簡単に変えることは出来ない。





(続く)






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