2014年3月31日月曜日

男と男の物語 十





               翌朝。会社で。

   Tさん、おはようございます。昨日はありがとうございます。
  楽しかったです。いやあ、こちらこそ。、、、、お決まりの挨拶を交わす。




           『あの、バースさんにもよろしくお伝えくださいね。彼、とっても
      いいかたですね。』


       すると突然Tさんの表情が輝く。


             『そうでしょ?あいつ、すごくいいやつなんですよ。あのバースってね。
      うふ、うふ、うふ、うひひひひっ!』



    うおおおおお!!!やめちくれえい!! おそらくTさんは綾ちゃんにちょっとだけ
「気を許して」しまっているんだ。自分が今、どんなに崖っぷちにいるのかも
分からずに。


       気を落ち着けて綾ちゃんはデスクに戻り通常業務に没頭した。



        そして綾ちゃんは程なくTさんに関して更なるショッキングな情報を仕入れる
             羽目に陥るのだ。



      




   


スーパーマーケットで見つけた
コーラ味のお茶!?
ロイブス茶をベースに
シナモン、チコリー、レモン、ライム、葛などを
ブレンド。かなりコーラに近い味で努力賞。
冷やして飲むとよりそれっぽい。
健康志向のママ向け。



2014年3月29日土曜日

男と男の物語 九

   




       おそらく綾ちゃんは支店長夫人から「Tさんには気をつけなさい」と
  釘を刺されていたせいでいつもより過敏になっていたのだろう。
  彼女に言われるまでもなく、だいたいこういう状況だと(男同士つるんで
  いるときに女の子が飛び入りすると)男の人はウキウキしたり緊張したり
  とにかく力んじゃうものなのだ。

   だから綾ちゃんはちょっとでも「危険な兆候」が見えたらすぐにでも
  逃げ出そうと思って構えていた。せっかく入社したばかりの会社、
  始まったばかりのドイツ生活を男に騙されたりしてふいにしたりしたく
  なかったのだ。


        ところがTさんはなんというかそういう意味で「空っぽ」な雰囲気の人だった。
  こんな感じの男の人には出会ったことがなかった。食事は美味しかったし
  映画は楽しかった。以上、おしまい。そんな感じ。
  その違和感が去り際の突然の理解に結びついたのだ。




           たいへんだ、と思った。



   つまりそんな風にして彼なりに頑張って女好きのフリをしているからには
  絶対にこのことを誰にも知られたくないに違いない。
  もちろん綾ちゃんだって確信と言っても所詮は単なる憶測に過ぎないのだから
  誰かに話したりする訳もない。

   でも、知って知らぬ振りをするのって • • • 、辛いものがあるなあ。



          

偶然動画サイトで武田久美子さん主演の映画を観た。
彼女がアイドルだった頃しか知らなかったので
びっくりしながらもあまりのハマリぶりに
のめりこんでつい見てしまった。

この世の幸せを全部持ってるんじゃないかと
思えるほど綺麗な彼女が背負っている「不幸」が
あまりにもリアルな良作。でもオトナ向けよ。



2014年3月28日金曜日

男と男の物語 八

   


          突然綾ちゃんを貫いた雷(いかづち)はその雷鳴を頭の奥深くにとどろかせ
   繰り返し綾ちゃんに、ある「確信」を告げ続けている。



                       二人は恋人だ。


          そして綾ちゃんはこの二日間、彼らにとってデートのカモフラージュ役を
   演じてきたにすぎないのだ、と。



      あれから20年の月日が経った今でも綾ちゃんはあの日の情景とあの日の衝撃を
 忘れることができない。


      実は今回この事件を物語るにあたって古い記憶を掘り起こし、吟味する作業に
よって分析出来たことがある。綾ちゃんは自分でもずっとわからないままでいた。
何故、私はそう思ったのだろうかって。他にいくらでもあの情景を説明出来る解釈は
存在するのだ。男同士で飲み直すとか荷物を取りに行くとかバースが別の用事で
その方向に向かったとか単なる「ノリ」でそっちの方向に向かっただけとか、
とにかく何でもアリだ。
しかもその時点で綾ちゃんはミヒャエルのこともゲンちゃんのことも
よく知らなかった。ミヒャエルのことを書いたページで「初めてその種の人に
出逢った」と書いたがよく考えたらTさんの方が先だ。一体何人いるんだ、この会社。

 ドイツで暮らすということがすなわちその類いの人々との出逢いを伴う体験となるなど思いもよらなかった頃だ。




        しかしそれは単なる「思いつき」を越えた理解だった。100パーセントを上回る
 確信だ。それほどの確信を持つに至る根拠はこの二日間彼らと共に過ごした
「時間」の中にある。



          彼らには「男の人」のニオイが無かったからだ。




         綾ちゃんは比較的男友達が多い方だ。そして男女間の友情というのは必ず、
ある一定のルールを伴う。これはいかなる状況でも変わらない。
男と女の間には、それが同性同士の場合には生まれない、ある「磁場」が存在しそこを
無意識のうちに計りながらコミュニケーションしなければならない。それは相手が
「枯れた」おじいさんでも未成年の若者でも親子でも師弟でも上司でもガイジンでも
すべからく。このルールが破られたとき友情も終わる。例外はない、、、はずなのに
Tさんとバースには全く「その」気配を感じなかったのだ。




               

初めてテレビではるな愛さんを見たときは可愛くてびっくりした。




2014年3月27日木曜日

男と男の物語 七




          あの時に見た映画のタイトルを思い出せなかったので必死で調べて見た。


             


                激流 RIVERWILD




 英語吹き替えだったに違いないがわかりやすいストーリーで助かった。画像が美しく
自然描写が綺麗だったので映画館にいることを忘れてマイナスイオンのただ中で深呼吸
している気になれた。



        綾ちゃんはどっちかと言うとジェリー ゴールドスミスの音楽に魅了されて
しまった。これがゴールドスミスの世界なんだあって感動。映画が終わったあと
軽くご飯を兼ねてカフェに入り、Tさん(音大出身)に音楽が素晴らしかったと
感想を述べると


          『そう?僕はありゃあ、ワンパターンだと思うけどなあ。』

とちっとも 感心した風ではなかった。



     二日続けて二人と付き合ったせいでTさんのお友だちのことも少しずつわかってきた。(綾ちゃんはここ数日必死で彼の名前を思い出そうと努力していた。そのかいあって
やっとで思い出した。バースという名だったんだ。) なんか、最初のニュアンスでは
ロンドンから遊びに来ているような感じだったが、よくよく聞いてみるとこちらで働いているのだそうだ。
       オッフェンバッハという地域に会社があり、住まいもそこだそうだ。あの辺りは
高級鞄のゴルトプファイルや高級磁器メーカーのヘキスト本社がある地域だ。
会社もきっとたくさんあるのだろう。





        夜も更けて、明日は仕事。じゃあTさん、また明日。バースさん、次の機会まで。
楽しかったです。さようなら。
綾ちゃんはくるりと踵を返して帰路に就こうととした、、、が、何か、本当に些細な「違和感」を感じて振り返った。綾ちゃんの目にはTさんとバースさんが二人で地下鉄に
通じるエスカレーターを降りていく情景が映った。何も変わったことなどない、か?



      いや、やっぱりおかしい。バースさんはオッフェンバッハにお住まいだと確かに
言った。ならば三人ともバラバラの進行方向のはずだ。なぜTさんと一緒に地下鉄に
乗るのだろう?二人で飲み直すのか?





              突然綾ちゃんは雷に打たれたような衝撃を覚えてその場に氷ついてしまった。
                           ある「可能性」が稲妻のようにアタマをよぎったからだ。





2014年3月26日水曜日

二周年記念と二本の薔薇



     綾ちゃんが医療アシスタントとして働き始めてからまる2年が経ちました。綾ちゃんはドクターに感謝の気持ちを込めて2本の薔薇の花を贈りました。赤と白です。





     回りのみんなに支えられて仕事してます。特に家族。未熟者の綾ちゃんは家事や子供の世話も満足に出来てないからみんなに迷惑かけどおし。それでも理解してくれて感謝、感謝の一言です。



     ブログでたくさんのエピソードを紹介してきましたが、どれも恐ろしいことに実話です。ここにいるとブログのネタに困るということが決してありません。





    今日から3年目に入ります。これからも人と人とのつながりを大切にして一瞬一瞬を大切にしていきたいです。



2014年3月25日火曜日

男と男の物語 六





       ヒルトンホテルでの昼食バイキングは楽しいひと時だった。




    綾ちゃんはフランクフルトにきたばかりで知人も友人もおらず
   会社の人に会わない週末はひとりぼっちだったし会社の同僚と
   プライベートでお会いするというのも新鮮だった。
   綾ちゃんは英語でおしゃべりというものをほとんどしたことがなかったので
   Tさんのお友達とちゃんとお話できるか緊張していたら、彼の方がドイツ語
   ペラペラだったので助かった。Tさんと綾ちゃんは日本語、Tさんとお友達は
   英語、綾ちゃんとお友達(名前を思い出せない)とはドイツ語という
   三つどもえコミュニケーションが妙に上手くいったものだ。
   コミュニケーションに時間がかかる分、話題に困るということがなく
   ゆっくりと日常の小さな話題をおしゃべりした。




    Tさんはお寿司の食べ放題に燃えていて、


      『限界まで食べるぞお〜!』


   とはしたないほど食欲を振り絞り必死に食べまくっていた。
   ドイツにお寿司ブームがやって来るのはもう少しあとの話で
   この頃はドイツでお寿司なんて超高級品だったのだ。



    綾ちゃんは(当時)小食でとてもじゃないけど元が取れないので
   バイキングがあまり好きではなかった。誘われなかったら自分から
   行ったりはしなかったと思う。その日もやっぱりすぐにお腹いっぱいに
   なって早々とお茶を飲みながら男性軍の奮闘を眺めたり応援したり
   していた。




    時間制限はなかったので彼らは実に良く食べた。2人とも
   体格は小さめだったのにお腹がぱんぱんになるほど食べて
   ふう、もう食べきれないというところで切り上げそのあと
   ゆっくりお茶休憩をした。



    ふふ、楽しかった。と思っていたら



    『ね、明日は映画に行こうよ。(お友達を指差して)コイツも明日
    ヒマだし。トレーラーの画像が素晴らしく美しかったから絶対観ようって
    決めてたヤツがあるんだ。』




    え??明日も??3人で???




    綾ちゃんもヒマだしこれと言って断る理由もない。
   でもなんか彼のペースにはまっていく感じもあるなあ。どうしよう。



    そして明日も会う約束をして綾ちゃんは彼らと地下鉄の駅で
   別れたのだった。



           

カフェ ハウプトヴァヒェ
地下はフランクフルト交通の要所
地下鉄や郊外電車の中心街






   

2014年3月23日日曜日

男と男の物語 五





       その日は土曜日で、ドイツでの一人暮らしが
      スタートしたばかりの若かりし綾ちゃんは
      ショッピングを兼ねてぶらぶらと街を散歩していた。
     


       綾ちゃんの会社はフランクフルトのまさに中心地に
     位置していて、土曜日だというのに会社のそばをうろうろして
     芸がないなあ、なんて思ったりしていた。時は初冬。
     クリスマスの飾り付けやクリスマス市がこれから始まろうと
     していたころだっけ。急に冷えが厳しくなり始めたからブーツも
     要るかな、コートは手袋は?なんてお店のウインドウを覗いていたら
     正面から私を呼ぶ声がした。




        『やあ、綾子さんじゃないですか。奇遇ですね。
        お一人ですか?』





       同期のTさんだった。ガイジンの(って本当はガイジンは
      アタシたちだって!)人と一緒だった。



        『ハアロー?ディスイズ アヤコ。マイ 〜 。』



       彼はイギリスはロンドンの企業からの転職者だった。
      ドイツ語はほとんど出来ないけれどクイーンズイングリッシュが
      達者で彼の華麗な英語の発音に綾ちゃんは入社初日から
      感心してしまっていたものだ。
      一緒にいるお友達は(男性だ)イギリス人で、ドイツに
      最近来たので一緒に街を歩いているんだということだった。





       『いや〜、嬉しいなあ、綾子さんに会えて。いやね、ロンドン時代の
      友人にフランクフルトを見物させようと思って街に出たはいいんですが
      な〜んか男2人じゃ活気が出なくてつまんないなって思ってたところ
      だったんです。実はね、今日、これから僕たちヒルトンホテルの
      バイキング食べ放題に行くつもりなんです。お寿司バーがあって
      お寿司も食べ放題なんですって。ねっ、行きましょうよ、一緒に。』




            ううん、支店長夫人のお言葉が頭をよぎる。




       ま、ランチだけだし2人っきりという訳でもないし
      このくらいはいいかな?




          

うわあ、懐かしい。
ヒルトンホテル フランクフルト




2014年3月22日土曜日

男と男の物語 四




      今、改めて思い返すとあの頃うちの事務所には
     9人のスタッフがいた。
     管理職は支店長以下2人のマネージャー。現地職員として
     男が4人、女性が5人、この9人のうちドイツ人は2人
     (ミヒャエルとゲンちゃんだ)。2人ともそのテのヒトだった。




      若かりし綾ちゃんはそれまで○モだのオ○マだのという人には
     お話やメデイアで聞き知ったりしたことがあるだけで
     実物を目の当たりにしたことはなかったので、いや〜、
     ドイツの人ってすごいな、オープンなんだな、とかびっくらこく
     日々の連続だった訳です。






      それに比べるとミヒャエルと綾ちゃんと同期で入社した
     日本人男性社員のTさんは、なんていうか軽〜い感じの人で
     いかにも女好きのオーラを出しまくってる人だった。
     綾ちゃんが入社してすぐの頃、一番最初に「一緒にごはんに行かない?」って
     誘われたのが彼だ。当時住居が決まるまでの間支店長宅に
     お世話になっていた綾ちゃんは、支店長夫人からわざわざ




       『Tさんには気を付けなさい。誘われても2人だけで
       出かけたりしないほうがいいわ。』


     なあんて釘を刺されたりしていたほどだったのだ。



     まっ、そういう人もいるかもね、なんて軽く受け流していた。




      そうこうするうち綾ちゃんは無事、自分のアパートを契約、
     晴れてフランクフルトでの一人暮らしをスタートさせる訳だが
     偶然の導きと言うべきかひょんなことからあるとき綾ちゃんは
     このTさんのプライバシーをかいま見ることになるのだった。 




          


レーマー広場
フランクフルトって皆さんどんなイメージの街でしょう?



2014年3月20日木曜日

男と男の物語 三






        もう一人、うちの会社の古株でドイツ人男性がいた。




 ゲンちゃん、というのが彼のあだ名だった。名字にゲン(Gen)の字が入って
いたせいだ。彼自身は日本語が出来なかったけどこのニックネームは彼の
お気に入りで同僚からも上司からも顧客からもこの愛称で親しまれていたっけ。




 あるときアルバイトにきた日本人主婦の人が彼を一目見て




       『C3POだわ。』



と言った。綾ちゃんはスターウオーズを見たことがなかったのに
それが何を指すのかすぐに解っておかしくて悶絶したものだ。



           

C3PO とR2D2


それほどそっくりだった。
ひょろひょろの体格、すべるような(?)歩き方
薄い金髪でしゃべり方もどことなく機械っぽかった。




彼は気のいいヤツでみんなに愛されていたけれど
ホモセクシュアルであることは公然の事実だった。
もちろん綾ちゃんがそういったことを知ったのは
入社後何ヶ月もたってからだ。



ある日のこと、その日は金曜日で会社が終わってから
どこかへ週末旅行に出かけるとかで18時なると
彼の「恋人」の男性がゲンちゃんをお迎えに来た。



その恋人の人もだいたい似た様な感じのC3POで(???)
二人はおおっといきなり抱き合ってちゅうっと軽〜くキスした。
ちょっと待っててね、すぐに片付けるからってゲンちゃんが相方を側に待たせて
数分後、二人は腰のとこに腕を回して
「じゃ、皆さん、良い週末を」と言い捨てて
出て行った。




立派なもんだ。




日本人は男女のカップルでさえこそこそお付き合いしてる
ケースが多いのに。





2014年3月19日水曜日

男と男の物語 二





     『だいたいさあ、人事採用する管理職がだめなのよ。』





  スタッフで一番古株の女性がお定まりの愚痴をこぼし始めた。




   『日本人を採用する時には学歴だのナンダのってうるさく検討するくせに
   ドイツ人スタッフの採用になったとたん及び腰になっちゃってさ
   自分たちがガイジン怖いもんだからちょっとでも強いこと言いそうな
   しっかり者は全部落としちゃってへらへらしたノータリン(死語か!)
   入れちゃうんだから。ミヒャエルの前任もひどいヤツだったけど
   よりにもよってまたしてもあんな知恵遅れ(ちょっと!)みたいなヤツ
   採用するなんて。』





   『だいたい、あのくねくねした身のこなしやへらへらした言葉遣い聞いて
   どうしてわかんないのかしら?あいつがオ○マだって。』





 ひええええ〜!!!そんなのわかんないよお〜!!つ、つまり、先輩方は
その男性を一目見ただけでそっち系の人だってわかるってことなんだ。




 そして驚いたことにミヒャエルは本当にそういう人だった。
これも伝え聞きではあるのだけれど、別の同僚が彼と四方山話をしていて
本人からそう聞いたそうだ。彼はそのことについては特に隠し立てを
しているということはなく、自分は一種の性同一障害で
女性を異性と意識したことはなく、恋人は男性としかおつきあいした
経験がないということだった。




 彼はのちに職場での人間関係がどんどん悪化していき最後は
泣く泣く退職していったように聞いた。綾ちゃんは夫の転勤で先に会社を
辞めちゃったからその状況は伝え聞いただけなんだけどね。



      今、どうしてるかな、ミヒャエル。





     

          これはシューマッハーさん
          なんとか目覚めて
          お元気になられますように


  おっと、下はエンデさん
 綾ちゃんがミュンヒェン大学の
 学生だった頃、エンデさんは
 まだお元気で
 マリーエン広場で何度も
 お見かけしました。

2014年3月18日火曜日

男と男の物語 一






          昔話になる。今から20年くらい前だ。





  綾ちゃんは交換留学を終えてミュンヒェンから一旦帰国した後
 ひょんな巡り合わせから再びドイツに来ることになった。
 サラリーマンとして。フランクフルトにある、日本人ならその名を
 知らぬ者はいない大企業のドイツ支店だった。



  この会社は、日本では有名企業でもドイツでは当時無名で支店自体も若く
 小さな事務所だった。支店長以下全部で10人くらいだったと思う。
 われわれ現地社員も全員20歳代から30歳代前半と若かった。
 綾ちゃんとほぼ同時期に入社した人があと二人いて、日本人男性が一人と
 ドイツ人男性がもう一人。二人はどちらも綾ちゃんと同い年だったけど
 二人とも転職組で同種の別企業からきた人たちだった。日本人男性をTさん、
 ドイツ人男性の名はミヒャエル(本名)と呼ぼう。



  ミヒャエルとは入社したその日から仲良くなった。金髪 • 青い目の背の高い
 ガイジン。典型的なドイツ人なのにやたらと腰が低く「優しい」雰囲気だったから
 とってもお話しやすかったのだ。彼のドイツ語は発音も明瞭で易しい単語を
 使ってくれるので綾ちゃんはとっても助かった。独文科出身と言っても
 実践はさっぱりだったからゆっくり優しく一対一でしゃべってもらわないと
 ドイツ語はわからなかったのだ。



  ミヒャエルと私は同じフロアで働くけれど部署は異なるので直接仕事で
 関与することは(最初のうち)なかった。綾ちゃんは総務 • 経理で
 支店長秘書 • 通訳も兼ねている、つまりは「何でも屋」なので
 覚える仕事が広範で最初の頃はあっぷあっぷだった。お昼休みや朝と夕方、
 言葉を交わす程度。でも同期入社の「同士」みたいな気でいたんだ。



  綾ちゃんはミヒャエルに対して単純に好感を抱いていたが
 日本人スタッフの間で彼の評判はすこぶる悪かった。仕事能力が
 著しく低いらしいのだ。綾ちゃんは度々、ミヒャエルと同じ部署の
 同僚たちが彼のことを愚痴っているのを耳にした。どの逸話も
 それが本当ならびっくりするほど彼の知能を疑ってしまう話だった。
 そして彼らは何かの折に、彼のことを



     『あのオ○マ』という表現を使って罵ったのだ。




        え?それって本当?




  もしそのウワサが本当なら、綾ちゃん、生涯で初めてそういうタイプの人と
 出会ったことになる。




           










2014年3月17日月曜日

男と男の物語 序






   こうやってつらつらとこちらで出会ったカップルの話を
  書いてて思ったんだけど、基本的にはドイツも日本も変わらないなあ。
  感情の表現の仕方が少し日本人よりおおらか(?)かなって思うけど。 





   あと、法的に切れてしまった後のカップルは友人づきあいをするにも
  憎しみ合うにせよおおっぴらだ。ただし、世間の好奇の目はドイツも
  日本も変わらない。むしろ心ない人のうわさ話が耳に入ったりするときの方が
  なあんだ、こんなことがウワサの種になるってことはやっぱり問題ありと
  認識されてるってことなんだな、って判ったりするものだ。




   綾ちゃんがドイツに来てから度肝を抜かれたのはむしろ男性同士の
  ペアのほうかもしれない。
  うちの病院ではなぜかしらそういう患者さんはまだ見たことがない。
  自己申告しないだけかもしれないが、初診のときやそのあとも
  患者さんと対話を多く持つことはうちの病院でものすごく大切な過程なので
  (そして性的な問題や幼児期の体験が病気と関わるケースも多いので)
  全く打ち明けないというのはあんまり考えにくいんだけどね。


   ということで病院の話題からは逸れてしまうけれど、綾ちゃんが
  これまでに出会った「そちら」系の方のお話を少ししてみたいと
  思います。 

  


          

昨日下の子がチェロの一日集中コースだった。
お昼ごはんは持ち寄りバイキング。
綾ちゃんは子供が好きだろうと思って
タコウインナーをたっぷり作って持たせたら
気持ち悪がられてほとんど誰も食べなかったって。
ショック!!!


         

     

2014年3月16日日曜日

男と女の物語は続きます ⑤






                『それでね、この間出張で取材旅行が入って
      トーマスと二人で一週間ブラッセルへいかなきゃあ
      いけなかったの。』






ほう。それでどうした。ダンナはどうした。




      『ダンナに話すと嫉妬に狂うのは火を見るより明らかだし
      でも秘密にすると後でバレた時に一悶着起こるのは
      目に見えてるしもうどうしようって悩んだんだけど
      とにかく正直に話した訳よ。もうそしたら主人はやっぱり大激怒。』




そうだろうね。オンナはつらいよ。あたしらにどうしろっていうんだ。
だったら仕事止めろって言ってるのと一緒じゃないか。あ〜あ、これだから。
男の人ったら、キミは好きにしてていいんだよ、なあんて言っちゃって
でもやっぱり自分の側でちいんとしてて欲しいってのが本音だったりする訳だ。
んで、どうしたの?シルレ夫人?




       『で、結局どうなったと思う?何とうちのダンナったら
       有給休暇を一週間もとって私たちの出張についてきたのよ!!
       信じられない。3人で仲良く飛行機に乗ってごはんも一緒に食べて
       仕事のときだけ彼は一人で時間をつぶして待ってるの。
       会社でも末代までの語りぐさよ。』






           ウケるう。やるねえ、あのダンナ。




          

おしぼりヒヨコ
超ウケます。






2014年3月14日金曜日

男と女の物語は続きます ④





       奥様というよりはお嬢様と言った方がいい様な  
      お若い方だがとてもしっかりしたキャリアウーマンで
      いらっしゃった。



       ただしお身体はとっても繊細。指圧もかなりそおっと
      やらなきゃあいけない。なるほどこれでは鍼を躊躇していたのも
      うなずける。



       やっぱり綾ちゃんはシルレ夫人ともすぐに仲良しになれた。
      面白いものでご主人とはご主人との話題があって奥様とは
      やっぱり共通の別の話題が出て来るものだ。しかも女同士の。




       お二人の歳の差からして或いはご主人は二度目のご結婚かも
      しれない。今どきバツイチなんて珍しくもないし、2度目の
      結婚で本当にお幸せになったカップルを綾ちゃんはたくさん
      見て来たからもしかしたらそんな感じかも。 ご本人に尋ねたりは
      してないけどね。




       そんなこんなで奥様の現在の悩みはご主人の「嫉妬」なのだそうだ。
      



       『ねえ、ヨシオカさんって朝から晩までドクターと一緒なんでしょ。
       一日の最も活動的な時間を一緒に過ごすパートナーが結婚相手と
       違う訳でなんだか変じゃない?ご主人はドクターにヤキモチ妬いたり
       しないの?』




        そうそう、私もそれについてはいつも何だかヘンだと思ってるんだ。
       ただし、うちの場合はドクターの奥様も合わせての三人四脚だからね。
       綾ちゃんはドクターの奥様のことも大好きで仲良しだから上手く
       いってるんだけどね。



       『私の職場のパートナーは私より一つ年下の男性なんだけど
       結構いいヤツで気が合うのよ。恋愛感情は全くないんだけど
       とにかく朝から晩まで彼と一緒にいるから、つい、家に帰ってから
       今日こんなことがあってねって談話にその彼の話題が自然
       多くなっちゃうのよ。トーマス(本名)がね、
       それでトーマスったらって。
       そしたら主人が不機嫌になっちゃって大変なのよ。』





          そうだろう、そうだろう。



         


                 トーマス??

2014年3月13日木曜日

男と女の物語は続きます ③





           これまた別のケース。






   ご主人は綾ちゃんと同い年。歳は内緒よ。政府のお役人。
  恰幅もいいし押し出しが良くってそのくせとってもソフトで
  感じの良いドイツの紳士。痛風の患者さんだった。





   痛風というのはずいぶん辛い病気のようだが、綾ちゃんの見るところ
  漢方的には案外治しやすい病気なんじゃないのかな?
  西洋薬を長期にわたって摂っていない場合に限ってだけど、どのケースも
  かなりキチンと治っているし予後も極めて良い。綾ちゃんはうちの病院で
  男性の患者さんしか痛風の人は知らないけれど、鍼を打たれた場所を
  見てみると皆、判で押したように腎経ばかり。煎じ薬の方も同じ材料が
  出て来ることが多い。



   ドイツのお役人は官僚の場合、国がプライベート保険を負担してくれるので
  うちの患者さんには結構公務員が多い。彼も2〜3ヶ月通ってすっかり全快。
  すごく満足して、今度はジャーナリストをしているという奥さんを
  紹介してくださった。



     『いやあ、うちの家内は鍼なんか絶対嫌だの一点張りで
     ひどい頭痛持ちのくせになんとも手を打とうとしないんだ。
     でも私がこんなにすっきり治ったからやっとで重い腰をあげてくれたよ。』




    ハイ、こちらとしてもありがたい限りです。お陰さまで綾ちゃんの世界も
   こんな風につながっていく。ここで働き出す前はドイツ人の友人といっても
   ママ友とか、ごく限られた交友関係だったのにね。
   シルレさん(仮名)、あなたともすっかり仲良しになったことだし
   きっと奥様とも色んな話が出来る。とっても楽しみです。




        そして翌週、シルレ夫人が病院にやって来た。





               ひゃあああああ〜!!





                お若い!!奥様!!



    つい、カルテに目がいく綾ちゃん。25歳以上若いよ。
   ええっと何から話そう?


    ダメだって、二人のなれそめなんか訊いちゃあ。
 • • • 好奇心丸出しの心をぐっと押さえ込む綾ちゃんでした。



   

        

枸杞(クコ)の実
綾ちゃんは毎朝患者さんにお出しするジャスミンティーに
枸杞の実、山査子(さんざし)、蓮の葉、菊花を
混ぜて淹れています









2014年3月12日水曜日

3月11日、今日という日をどのように明日に生かすか








           日本人は知るべきだ。





  昨日、今日と綾ちゃんがどれだけたくさんのドイツ人から3•11の追悼を
 述べられ、そして日本の原子力問題について話し合おうとしていたかを。
 彼らは皆、ごく普通のドイツ人だ。高校の先生、大学生、年金生活者、
 サラリーマン、主婦、、、。



  誰もが汚染水問題や原発再開問題についてそんじょそこらの日本人よりも
 はるかに大きな関心と知識を持ち心配をしている。
 「他人事ではない」地球規模の大問題と認識し、一体ニッポンはどうなって
 しまっているのかを知りたがっている。


      
  本当はそんなのこっちが知りたいくらいだ、けれど、あれから3年が過ぎて
 諦めの様な気持ちとともにひとつだけ芽生えて来た想いがある。



  日本の表面を覆いつくしているメデイア、3大新聞をはじめとしてテレビも
 何もかも御用報道に成り下がった現状は主に原発問題が克明に浮き彫りに
 したものだ。
 しかし、ここまで骨抜きになってしまったニッポンは私たちの生きて来た道程の
 鏡としてそこにあるものだ。悔しいけれどやっぱり私と私たちの責任だ。
 


  これから3•11の日が巡り来る度にそのことを胸に刻まなければならない。




  誰が何と言おうと原子力には反対だ。武器を持つことも誰かを傷つけることも。
  
  



いのちをこころを奪い去っていく
力もいい訳も全て許せない

わたしは祈る以外に知恵も力も持たないけれど
短い花の生命を
ささやかなこの愛で染めたい


さだまさし「祈り」より




    )

     後藤先生が2013年の原発問題の総まとめをしてくださっています。
    「東京電力に原発再開させるのは交通事故を起こしたドライバーに
    運転を容認させる様なもので彼らにその資格はない。」




さだまさし「祈り」










2014年3月11日火曜日

男と女の物語は続きます ②






     デザイナーの彼女がお若い頃、付き合っていた男性だそうだ。





          デザイナー仲間で一緒に暮らしていた(!)という。




     そこに現れたのが現在の夫で、ご主人は年齢もずいぶん上で
    やはりインテリアデザイナー、その業界では名の知れた成功者らしい。
    彼らの指導者的な役回りで存在していたいわば「先生」だった訳だ。
    師を尊敬する気持ちがほのかな恋心に変わり相思相愛へと。
    そんですったもんだの末、当時の「彼」とは別れてめでたく
    結婚したまではよくある話かもしれないが • • • 。





     いざ彼女が独立しようという時になると、実力的にも
    感性や、何より彼女のイメージを最も具体的に理解している
    「元カレ」氏とペアを組むのがお互いに最も合理的な
    選択だった、、、??




   というのが彼女の説明。で?あの、元カレと仕事上のパートナーとして
  店を出す、という時にご主人はなんておっしゃったんですか?



    『もちろん大反対だったわ。今でも私と彼のことを疑いの目で見ていて
    しょっちゅうお店に電話かけて来たりするの。
    彼の話題なんて出そうものなら一気に不機嫌になっちゃうわ。
    彼のこと、良く言っても悪く言ってもどっちもだめなの。
    とにかく私には共同経営者なんていないかのように振る舞ったほうが
    家庭円満にいくのよ。』




    そうだろう、そうだろう。いや、ダンナさん、あたしゃアンタに
   同情しちゃうよ。お会いしたこともないけれど。






      『そういえば、その共同経営者なんだけど、来週こちらで
      予約を取ったから彼のこと、よろしくお願いしますね。』






          だから「元カレ」の健康の心配なんかするなって。




         

昨日、YouTubeで偽ベートーベンこと
佐村河内守さんの謝罪会見見ました。
あまりにも誠実味のない受け答えにびっくり。
これが詐欺師ってものなんだと知りました。





2014年3月10日月曜日

男と女の物語は続きます ①






        デザイナーの女性がいる。ミュンヒェンの都心部で
       小物店を経営する方だ。ひざの故障で完治はちょっと
       難しい。対処療法に近い、痛め止めの薬やひざ関節の
       手術を避ける、または先延ばしするための治療を行っている。



 綾ちゃんがここで働き始めてからすぐの頃初診でいらして今まで1、2週に
一度の割合で鍼を打ちにいらっしゃる。だから漢方歴?は綾ちゃんとほぼ一緒。



 彼女の通院が3ヶ月ほど過ぎた頃、綾ちゃんに向かって、こうおっっしゃった。



    『残念だけどそろそろ治療を打ち切らねばなりません。
    さすがにもう、お財布が苦しくて。』




• • • なんて言ってたけれど結局今まで通ってくださっている。実は先生の
奥様のアイディアで「物々交換(?)」というか「取引」というか、
一種の交換条件で治療を続けている。病院の様々な洋裁のお仕事、例えば
綾ちゃんの仕事着とか治療代のカバーとかオリジナルで素敵なものを
作ってくださる。その請求書の支払いをこちらは治療でお返しする、という
やり方だ。
このやり方は一応会計上も問題なく、かつ患者さんには嬉しいことのようで
そんなやり方で2年近くが過ぎた。





  彼女は50歳後半でいらっしゃるが年金生活者のご主人とは別居生活だ。
不仲からではない。お仕事を勤め上げたご主人はオーストリアの山間の
別荘を自宅に改装して田舎の暮らしを楽しんでらっしゃる。
奥様はミュンヒェンにお店をお持ちなので週末を利用したり夏休みの時に
お帰りになるということだ。



         それはいい。




 問題は、一年の大半を過ごすミュンヒェンでやっているというお店。
ここで共同経営をやっているという男性、それは何と彼女の「元カレ」だと
いうことなのだ。





          

夫の見送りで空港へ
ドイツ料理屋さんで注文した焼きそば
衝撃的なマズさだった。焼きパイナップルが乗っていた。
ビールは二重丸。




2014年3月9日日曜日

ドイツ、男と女の物語 ⑩






       つまり彼は暴力が原因で奥さんと離婚したんだ。







           やっぱりヒトは見かけではわからん。



     そりゃあ、元妻は顔を合わせたくないしましてやごはんなんか一緒に
     食べたくないだろう。彼女の方は予算の都合のため最初からの
     申し合わせで5回だけ治療にきて(もちろんとても元気になって)
     お別れした。自分はこれでおしまいだけれど彼の方はプライベート
     保険加入者だからきっとしょっちゅう来るだろう、
     ここが素晴らしいところだというのはよくわかったので病気持ちの
     知り合いには宣伝するわね、と言い残して。





       彼の方は本当にいつ見ても穏やかで優しい紳士だ。
     こんな人に惹かれて結婚して一緒に暮らしてみてそしたら家庭内では
     ぷっつんDV男だったりしたらそりゃあショックだよ。
   


       彼自身は現在暴力癖からは立ち直り、暴力を振るう相手もない
      一人暮らしだ。己の内側に巣食う暗い想いと折り合う術を学び、
      かつおそらくは怯え中医学に期待を寄せているように思う。
      きっと元の奥さんも同じ想いで彼にうちの病院を紹介したんじゃ
      ないだろうか。別れた男女の関係は日本だろうがドイツだろうが
      ウエットなものなのだ。





             

ところで綾ちゃん夫のお奨め本はこちら
アルボルムッレ スマナサーラ著
「怒らないこと」
「怒り」は「生きる」ことと同義なのだと
仏教の教えに従って教えてくれます。





2014年3月8日土曜日

ドイツ、男と女の物語 ⑨





      『それはいけない。いいですか、怒りというものは
      食事を変えるだけで無くなる様なものではない。
      もっと根本から立ち向かわなければいけないものなんだ。
      ご主人にお伝えください。是非この本を読むようにと。』




んで、紹介された本がコレ。




       




マーシャル ローゼンバーグ著




はああ???




そうか、そうなんだ。



ちなみに日本でもローゼンバーグさんの本は出版されていた。





ローゼンバーグさんという人はカール ロジャースの弟子らしい。
ロジャースなら綾ちゃんは日本で学生時代、臨床心理学〜ロジャース研究の講座を
(趣味で)取った事があるからだいたいの概要は知っている。




えっと、テーマがぶれないように、ここで綾ちゃんが何を問題にしたいのかを
先に書いとくけど、どうも、この本はDV関連の本らしいという事だ。
名著のようだけどね。



綾ちゃんは自分がお肉キライになった顛末を結構色んな人に説明するんだけれど
そう言えば日本人にばっかりでドイツ人に説明するチャンスはあまりない。
菜食主義が珍しくないからだ。
だけどその患者さんは私の話の中で「怒り(Wut)」という言葉に
すぐに反応した。そして即座に「暴力」と結びつけたのだ。



これがヨーロッパ的な発想なのか彼独自の体験オンリーによるものかは
判らない、が彼は彼自身がどれほどこの発作的な「怒り」に
悩まされてきたか、そしてこの本によってどれほど救われたかを
熱く語り出した。








2014年3月7日金曜日

ドイツ、男と女の物語 ⑧





       菜食に目覚めた夫はある時綾ちゃんに向かって、自分が
      ネットで見つけた食肉屠殺映像の話をした。





       そしてその日から綾ちゃんは一切お肉を食べられなくなって
      しまった。綾ちゃん本人はその映像を見てはいない。いまだに。
      それでも突然綾ちゃんに降り掛かった精神的ショックは大きく、
      スーパーの精肉コーナーにも寄り付けない。
      胸が締め付けられる様な想いとともに涙が出そうになるのだ。




       不思議な事にお魚は大丈夫。これはありがたく生命をいただく
      仏教的精神で普通に焼き魚だって食べれる。




       ところが10年以上菜食をしてきた夫は「結局肉食をしてもしなくても
      怒る時には怒るので少なくとも自分の場合は無関係」と結論を下し
      勝手に元の肉食生活に戻ってしまった。




           そんなあ〜!! 




       ちなみに綾ちゃん一家ではこのパターンで新しい習慣や習性が
      行き渡る事が多い。夫が何やら新しい事をし始めてそれが皆に
      根付いた頃、言い出しっぺの夫本人がいちぬけた、をするのだ。
      ずいぶん勝手な人だと思うがコレに関しては綾ちゃんは奥さんとして
      すでに達観していて、もう仕方ないと諦めている。





      • • • とまあ、こんな話をお昼ごはんの際に患者さんに
      打ち明けたのね。



       そしたら意外な返答が返って来た。




        


現在上の子がハマっている「ダンボー」




2014年3月6日木曜日

ドイツ、男と女の物語 ⑦







     菜食主義の人というのは欧米では広く受け入れられていて
    基本的にはそれほど(つまり日本でコレを貫くより)大変ではない。
    それでも典型的なドイツ食というのはどど〜んとした肉の固まりが
    メインで綾ちゃんが初めてドイツにきた頃にはお魚にありつける
    タイミングでさえかなりラッキーで、野菜サラダ以外の主食メニューを
    お野菜オンリーで見つけるのは結構難しかった。
    今だってパーティーやお呼ばれの時には気を使っちゃうもの。




     で、どうして綾ちゃんがお肉を食べなくなったかと言うとね、って
    話を始めたの。




     綾ちゃんが今回ミュンヒェンで暮らし始めた10年ほど前、綾ちゃんは
    そういえばまだお肉を普通に食べていた。厳格な菜食を始めたのは夫だった。
    あれは確かミュンヒェンにやってくる少し前、フランクフルトに住んでいた頃。
    夫が突然、「人体実験」を行うと言い出したのだ。(そう、彼は実は結構
    変わった男である。)きっかけはルドルフ シュタイナー





          


「健康と食事」
という一冊に出逢ったことだった。




ちなみに綾ちゃん夫は大変穏やかで優しい人なのだけれど
当人には当人にしかわからない「悩み」というものがあるらしく
当時の彼のテーマは自己の内側に内在する「怒り」とどう向き合っていくか、
ということだった、らしい。




怒りたきゃあ、怒ればいいじゃん、というあっぱらぱ〜な綾ちゃんと違って
真面目な夫はこの本の中で一つの解釈を目にしたのだ。
即ち「怒り」は肉食によって導かれる、と。
ほほう、では肉食を止めてみるか • • • 。





かくして突然の菜食主義宣言って、あの、お料理する人はワタクシなんですけど。





最初の頃、ずいぶん苦労しました。
何と言っても妻であり我家の料理番である綾ちゃん本人はこの思想を
さっぱり理解できず(いや、本は読みましたよ、もちろん。)
せっかくだから「ちゃんと」やろうということでおる日突然、
肉も魚もアルコールも、さらに乳製品までやめるという
完全菜食生活が始まったからです。もちろん夫の希望で。




まあ、綾ちゃんはお料理好きだから一応いろいろ考えてメリハリある
食卓にしようと努力致しました。
ただし、綾ちゃん本人は全くこの思想には同調出来ないため
主人の分の特別食およびお弁当は完全菜食、それ以外は
それまでと変わらぬ普通のごはんにしていました。




さて、その綾ちゃんが何故、今では菜食になったのか、
何と、綾ちゃん夫は今では肉食野獣へと戻ってしまったのに(!!)です。



それは明日のお楽しみ。






「変わり者」の綾ちゃん夫は昨日のファッシングで
ぶっといバレリーナになって周囲の度肝を抜いていました。
写真右が当人です。もちろんこれはナイロン製の衣装に
空気を入れて膨らましてあるだけ。
夫は中肉中背です。












2014年3月5日水曜日

ドイツ、男と女の物語⑥





      『いやあ、感激です。ここのごはんはたくさんの種類の
      野菜を使っていて色んなおかずがある。
      僕は男の一人暮らしなのに菜食主義者ときてるから
      毎日の食生活がなかなかアイディアの無い無味乾燥な
      ものになりがちで。
      家で黒パンにジャムを塗って菜食ですって言ってもね。』





 そうでしょう、そうでしょう。去年の春、うちのドクターは大決心をして
台所を大幅改装して狭いスペースながら超一流の台所用具をそろえ、何と
専任の料理人まで雇い入れた。ここ、個人病院なんだけどサービスで
ごはんまで振る舞えるようにしちゃったのだ。綾ちゃんはどうなることかと
心配していたんだけれどこれが意外や意外、大ヒット。
お料理のおばさんはドクターと同郷の中国人でドイツ語は片言しか話せないけど
中国にいた頃、産院勤めの料理人だった。おそろしく仕事が早く、中国人なのに(!?)
ものすごく清潔に調理する。更にアイディア豊かで色んな薬膳料理を提案して
新しいデザートなんかを試作したりしてくれる方だ。
もちろん市販のだしの素や化学調味料、インスタントものは一切使わない。
だから中華料理と言ってもいわゆる中華料理屋さんでお目にかかる様なものでは
ない。そしてヒマを見ては餃子や肉まんを作り置きしてくれるので素晴らしく
ありがたい存在だ。




      で、その彼と菜食談義を始めた綾ちゃんでした。





                         


今日はファッシング(断食祭=カーニバル)
行列の出る日





                                       

んで、この季節に出回るクラプフェンという揚げパン







                                         



        

2014年3月3日月曜日

ドイツ、男と女の物語 ⑤

    



                    後日、男の人から電話がかかってきた。





          『 ○ ○さんから紹介されてお電話しました。予約をいただきたいのですが。』






                おお。彼女の紹介というだけあって柔らかでふわりとした口調。ええと、
         水曜日か木曜日ですね。ああ、水曜日ならご紹介者の彼女も予約が入ってますよ。
         よろしければ皆で一緒にお昼でもいかがですか?





               紹介者の彼女はうちのドクターが振る舞ったごはんにすっかり魅了され、
          是非次回は自分の体質に合った薬膳料理についてご教示いただきたいと、
          わざわざお昼前の11時に予約をしていたのだった。
          そして彼のほうも、電話口で、彼女から昼食が素晴らしかった話を聞いたこと、
          ヴェジタリアンの自分も是非、健康的な食生活と料理について話を聞きたいと
   おっしゃっていたのだ。





    水曜日の11時には既に彼女を含めて既に二人の予約が入っていた。
  ううん。その前30分、その後一時間はスケジュール空いてるから
  三人いっぺんにやれないことはない。
  一応、ドクターに事情を話して許可をいただいてから三人目の予約を入れた。





            でも 、その日彼はこなかった。その日の朝電話があって、仕事で今日は
  来れなくなった。明日に予約を変えられるだろうかとおっしゃった。
  その日綾ちゃんは紹介者の彼女と一緒に昼ご飯を取りながら漢方における
  健康食(ゆる〜い食膳)について語った。



     『残念でしたね、彼も一緒にお昼ごはん食べられると思っていたのに。』




  綾ちゃんがそう言うと、彼女はちょっぴり複雑な微笑み方をした。
  あれれ?変なの?と何となく綾ちゃんは思った。 




              翌日やって来た彼は電話での会話から推察したとおりの優しそうな紳士。
  書類にひととおり記入してもらってからドクターのお部屋へ。約30分の診察の
  後治療室へご案内。するとドクターがこっそり綾ちゃんの近くに寄ってきて
  こうおっしゃった。




               『吉岡さん、彼は昨日の彼女の別れた元夫で、しかも相当ひどい騒動の
  後に離婚したらしいよ。』



           、、、、、は??、、、は~あ??




近所のうちのお庭
もうすっかり春


白く見える小さなお花、すずらんです。
種が飛んで来たのか綾ちゃんちのお庭にもわずかに咲いてます。
とっても綺麗




2014年3月1日土曜日

ドイツ、男と女の物語 ④





                     話をうちの病院に戻すけど、例えば先月、新患である女性がやって来た。
    とても穏やかなアジアファン(このパターンは結構多い)の彼女は、
    さもありなん、うちの常連さんの仏教徒グループ(! 因みにチベット仏教です。
    かなり真剣な人々)の紹介でした。
           うちはオリジナルチャイナな雰囲気に惹かれて人々が集まるから、従って
    世界も狭い。彼女はうちの病院で意外にも何人かの知人にばったり再会する
    ことになる。例えば昔の同僚。



             実は綾ちゃん、もしやこのお二人は知り合いじゃないかと思っていた。
    同年代の二人から別々にお若い頃ルフトハンザ航空のキャビンアテンダントを
    していてアジア線を主に担当していたと伺っていたからだ。
    もちろん ○ ○ さん、ご存知ないですかあ〜?なんて訊く訳にいかないので
    黙っていたんだけど、ある時、二人がばったり顔を合わせた。




         『ええっと、私、あなたを知ってるわ。
          ええっと、名前は • • 。』




    なんてやりとりがあって昔の話題に花が咲く。スチュワーデス時代に
    たくさん海外を体感して、すっかりアジアファンになってしまったお二人。





       それぞれの人生があって航空会社を退職。その後の人生を互いに
     語り始める。このすっかり落ち着いた感じのおとなしい女性はしかし、
     恋多き人生らしく並べ上げる恋愛歴も半端ない。




       結局、2回の離婚歴を持ち、つい最近まで同居していた彼とも
     別れたばかり。引っ越しの回数が多いのはそのせいらしい。





       『ああ、それで吉岡さん、こちらに紹介したい患者さんが
       いるんだけど。』




って絶対「ワケあり」の人だよね。ね。



          
お二人とも声を揃えて
『私たちの頃、スチュワーデスってあこがれの職業だったの。
いい時代だったわ。』とおっしゃっていました。