その日は土曜日で、ドイツでの一人暮らしが
スタートしたばかりの若かりし綾ちゃんは
ショッピングを兼ねてぶらぶらと街を散歩していた。
綾ちゃんの会社はフランクフルトのまさに中心地に
位置していて、土曜日だというのに会社のそばをうろうろして
芸がないなあ、なんて思ったりしていた。時は初冬。
クリスマスの飾り付けやクリスマス市がこれから始まろうと
していたころだっけ。急に冷えが厳しくなり始めたからブーツも
要るかな、コートは手袋は?なんてお店のウインドウを覗いていたら
正面から私を呼ぶ声がした。
『やあ、綾子さんじゃないですか。奇遇ですね。
お一人ですか?』
同期のTさんだった。ガイジンの(って本当はガイジンは
アタシたちだって!)人と一緒だった。
『ハアロー?ディスイズ アヤコ。マイ 〜 。』
彼はイギリスはロンドンの企業からの転職者だった。
ドイツ語はほとんど出来ないけれどクイーンズイングリッシュが
達者で彼の華麗な英語の発音に綾ちゃんは入社初日から
感心してしまっていたものだ。
一緒にいるお友達は(男性だ)イギリス人で、ドイツに
最近来たので一緒に街を歩いているんだということだった。
『いや〜、嬉しいなあ、綾子さんに会えて。いやね、ロンドン時代の
友人にフランクフルトを見物させようと思って街に出たはいいんですが
な〜んか男2人じゃ活気が出なくてつまんないなって思ってたところ
だったんです。実はね、今日、これから僕たちヒルトンホテルの
バイキング食べ放題に行くつもりなんです。お寿司バーがあって
お寿司も食べ放題なんですって。ねっ、行きましょうよ、一緒に。』
ううん、支店長夫人のお言葉が頭をよぎる。
ま、ランチだけだし2人っきりという訳でもないし
このくらいはいいかな?
うわあ、懐かしい。
ヒルトンホテル フランクフルト
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