2014年4月6日日曜日

男と男の物語 十七





              あるスペイン人の女性がロンドンに移住を希望していた。
     が、イギリス外人局はヴィザ申請に厳しい。当時EU以前のヨーロッパで
   (いずれにせよイギリスはEUじゃないし)無職の外国人が滞在許可を得る方法は
   結婚以外にない。かくして彼女は偽装結婚の相手を探していた。



    その女性とTさんがどのようにして出会ったのかは我々の知る由もないことだ。
   がこの結婚はTさんにとってもメリットがあった。
   即ちホモセクシュアルの隠れ蓑に出来るということだ。
   かくしてTさんはそのスペイン人の女性と入籍、住所登録を同じ場所にして
   すぐにドイツへ出国、ただちに離婚。同時期にドイツで職を得たバースと
   フランクフルトにて夢の新生活を開始した、ということらしい。



        すごすぎてついていけない人生だ。


     だけど彼のヨーロッパ生活は常に不幸につきまとわれた。



昨日列車に乗ったら標識が可哀想なことになっていた。
本来車窓から身を乗り出さないこと(左)
窓からゴミを放り投げないこと(右)のマークのはず。
ヒトは滑って転びビンは入れ物(?)の中で転がっている。



男と男の物語 十六

        



           おそらく、そもそも彼がヨーロッパにやって来たのもそのためだろう、
   ということだ。


  
          そう、これも綾ちゃんがドイツに来てから学んだことの一つだ。
   海外には自国における「社会的弱者」が集まる。例えば綾ちゃんは
   こちらに来てからたくさんの日本に帰化した韓国人と知り合いになった。
   彼らの多くは日本では日本人の名前を名乗り、日本人として世間的に
   振る舞ってはいるが己のアイデンティティーに苦悩してきた人々だ。
   綾ちゃんの故郷は福岡なので韓国とは目と鼻の先でクラスメートの中にも
   そのような人がたくさんいたらしいと後から聞いたが、具体的に誰のことだとは
   今もって全然知らない。

    彼らは海外に出て初めて自由に息をつき本当の名を名乗り
   「あの頃は辛かったの。」と語っていた。


           なるほど。ホモセクシュアルもそうだったか。というよりもっと大変かも。
    結局日本を離れても日本人であり日本人の外見からは逃れ得ない。
    日本の企業で働くしかないし、そしたら海外の狭い日本人社会の目を
    気にしながら生きていかざるを得ない。



           Tさんは海外暮らしの中でも恋人の存在を徹底的に隠し(ばればれだったが)
    常に噂のネタにされるという日々を送っていた。ロンドン時代も全く一緒で
    当人一人が必死で否定しても周囲の好奇の目が尽きることはなかった。
         ロンドン時代の「恋人(男)」と別れて新しい「彼氏」が出来た時、Tさんに
    二つの転機が訪れた。すなわち転職と結婚である。




           我が家のお庭に二匹のリスが遊びに来ました。











        じゃれあってる様子がわかるかな?
     

2014年4月4日金曜日

男と男の物語 十五

  



        そうこうするうちに綾ちゃんは同僚の紹介であるお得意様の企業の
   人々と仲良くなった。この会社はいわゆるベンチャーで社員も全員若くて
   気安く付き合える人たち。そしてそこは例のTさんがうちに来る前に勤めていた
   企業でもある。どこの企業もヨーロッパ内ならば同じ屋根の下のようなもので
   ロンドンとフランクフルトとは言え彼らは元同僚としてTさんの「過去」を
   知る人々でもあった。


        なるほどこれなら今更何かを隠しだてするなどどだい無理ではないか。



          ある時綾ちゃんは彼らの内輪の「飲み会」に誘われた。そこでやっと(?) 
   Tさんの「正体」というか「ウワサの真相」というかとにかく彼らの「理解」を
   聞かされることになる。



      即ち Tさんは正真正銘(?)のホモセクシュアルの男性なのだと。
    そしてロンドン時代もその醜聞で職場を追われる羽目に陥ったのだと。





近所の道路にすみれが咲いていた。



患者さんが持って来てくれたチューリップ。




これも患者さんから。


男と男の物語 十四

        



            ワタクシが浅はかでした。



   そう。冷静になって(後から)考えてみると全てがあほのように自明の理として
思えてくるのは何故だろう?

     綾ちゃんは本来勘のいいほうでも何でもない。むしろニブイヤツなのだ。
その綾ちゃんがピンとくるなんて事態なら誰の目にも明らかなことである、
というだけのこと。とほほ。



           情報だっていつも一番最後だしね。



      綾ちゃんはTさんの「名誉」にかけてこの件は口外してはならないと
思っていたけれど、じゃ、Tさんの名誉ってなんなのよってくらい彼とバースの仲は
世間に知れ渡っていた。


      ツアイル(フランクフルトの買い物街)を二人で新しい箒とちりとりを抱えて
(新婚生活?)仲良く歩いていたとか黄昏のマイン河畔を腕を組んで(!)歩いていたとか
肩を組んでたとか、挙げ句の果てにはキスしている場面を目撃したという情報まで
あった。ただし、実際にバースさんと会って話をしたことのある人間は綾ちゃん一人
だった。きっと綾ちゃんなら紹介してもOKだと思った、のかな?




          

ハウプトヴァヘからツアイルへの目抜き通り



黄昏のマイン河畔は男同士で歩かないで欲しい。きもい。




2014年4月3日木曜日

男と男の物語 十三

           


                                              目眩(めまい) がした。


      綾ちゃんはその場を適当に取り繕って(どんな「取り繕い方」があると言うんだあ!?
もはや覚えていないがぼろぼろだったに違いない。それでも綾ちゃんとしては証拠もなく同僚を貶めるような情報を「お得意様」相手に流す訳にはいかなかった。) 彼と別れた。




       今にして思えば綾ちゃんはあの時、あの人に「引っ掛けられた」に違いない。
Tさんの話題を出してTさんに恋愛対象がいないという話題を「仕掛け」て新入社員の
私にTさんの「スキャンダル」を「教えて」あげようとしたんだ。



       そのことを思い知ったのは「似たような」ことが形を変え品を変え綾ちゃんの
周りで起こったからだ。先輩社員やら顧客から繰り返し



               『ねえ、ねえ、Tさんってお○まっぽ~い!』


                 『彼ってアヤシイんじゃない?』


と聞かされさすがに知らんぷりするのもむしろヘンの領域へと突入していった。
みんな、何とかして綾ちゃんにTさんのことを「教えて」あげたいんだけど自分が
「言い出しっぺ」になるのは嫌という状態だったのだ。




ミュンヒェン日本人学校の桜
入学式には間に合わず残念、
でもとても綺麗でした。



2014年4月2日水曜日

男と男の物語 十二





         Tさんの仕事ぶりはというと、これがまた芳しくなかった。
   ロンドンから来たばかりとは言え同業者同士、世界は狭く社内でも顧客
   (取引会社)間でも彼の名は知られていた。が、一様に



                 「約束を守れない。」
                  「言うことがバラバラ。」
                  「何を言っているのかわからない。」



など散々なものだった。どうも又例によって(?)これらの評判を知らぬは上司ばかりなりの世界だったようだ。




     ある日の昼休みのこと。綾ちゃんは同業者の方とランチで偶然一緒になり
なんともなしに世間話をしていた。するとその方は最近、仕事でTさんとの間で
トラブルがあったとかでだんだんにTさんの愚痴話に話題が傾いていった。


 彼の方はかなり嫌な思いをしたらしくTさんを罵る語気が次第にエスカレートして
行く。全くニンゲンとしてどうかしてるんじゃないかって。だから言い寄る相手も
いないんだって。



 綾ちゃんとしてはTさんの仕事の実態は噂で聞いているだけだったし一応同僚だし、
人間性まで悪く言うのはちょっと、、、という思いから、つい(でも言葉に気をつけ
ながら)



         『ニンゲンとしてTさんがおかしいかはわからないですけどプライベートは
  それなのに充実しているようでしたよ。恋人のような方(なんて表現したらいいんだ!)
  もおられるみたいだし。』


とTさんを庇ってみた。、、、ら、


                          『男だろ?』
                  

                    は?




                  『ヤツの恋人って男だろ?みんな知ってるよ。有名な話だ。』




                                はああああ?????




      


ミュンヒェンは春真っ盛り



2014年4月1日火曜日

男と男の物語 十一

      


           綾ちゃんの仕事は総務。社員の公的書類作りも重要なお仕事の一つでした。



    当時うちの会社は日本人が大半で社員の労働ヴィザなど必要書類を作成するのは
綾ちゃんのお仕事。必要な資料も綾ちゃんが保管・管理してました。プライバシー性の
高いものだけ上司が持っていたけれど。



 だから綾ちゃんは思いもかけず同僚のプライバシーを覗いてしまうことがある。
例えばTさんの労働許可証(私もTさんもドイツに来たばかりでこれらの許可証は順次
限定的にしかおりない。)の個人データ欄に「geschieden(離婚)」の文字を見つけたり。
しかも離婚したのはつい最近のことだった。ドイツに来てからじゃないの!?


   彼は社員データ上ではまだ「既婚者」のままとなっており(つまり、この欄を
訂正するのは綾ちゃんのお仕事だったのだが綾ちゃん自身も新入社員であったため
そこまで手が回っていなかったのだ)、そこには彼の「配偶者名」が記されていた。
んん??何て読むんだ?この名前!?




                 ガイジンの名前だ。おそらくイタリアとかスペイン人の。



          すると、Tさんのボーイフレンドの件は全て綾ちゃんの勘違い??だったのか?
            結婚相手なら女性に決まってるもんね。




       国際結婚が上手くいかなくて離婚した夫婦を綾ちゃんはこののちごまんと
目にすることになるのだが、Tさんもその中の一人だったのだろうか。
結婚というのは言葉も文化的背景が同じ人同士でさえ難しいのだから国籍の異なる者
同士、多くの困難が待ち受けているに違いない。




     綾ちゃんはTさんに対して同情の気持ちと(なんたって彼は綾ちゃんと同い年だ)
それからどうしても拭いきれない「疑惑」を相変わらず抱きながら日々を送っていた。


     どれ程の事実を目の前に突き付けられようが依然として綾ちゃんは疑っていた。
   それほどまでにあの日の、あの日曜日の出来事は衝撃的だったのだ。


ドイツのスーパーマーケットに売っている
ツナ缶はGEISHAさんだそうです。
マグロって日本のイメージなんだね。