その女性が入ってきた時、綾ちゃんはてっきり物乞いの人が紛れ込んだと
思ったんだ。病院は街の中心街にあるから隙あらばホームレスの人が
雨宿りやなんかで寄り付こうとする。大病院の待合室なんて上手くいけば
気づかれないしね。まあ、大抵の場合管理会社の人たちがきちんと対処して
いるから問題にならないけどね。だから綾ちゃんも安心してこういう時は
落ち着いて応対できる。予約はおありですか?うちは事前予約制のプライベート
病院ですが、、、ってね。
でもそのおばあさんは予約済みだっていうんだ。お名前はZさん。
あれ、本当。はあ、それではどうぞ。こちらへお掛け下さい。
お茶はいかがでしょう?
初診の問診票にご記入いただけますでしょうか?
、、、しかし、すごい格好だ。
にほんのせんべい布団を縫い合わせたようなコートはぼろぼろで磨り減ったり
破れたり汚れたままだし髪もざんばらで山姥状態。佝僂(くる)病で
折れ曲がった背中がミステリアスに怖い。もちろんうちの病院にはこの症状の
患者さん自体は別に珍しいことはない。当然ながら背筋痛や腰痛に苦しめられて
いらっしゃることだろう。
だが彼女の容姿にとどめを刺しているのは彼女自身というより彼女の
「持ち物」にあった。どこにでもあるショッピングカートなんだけど
やはりぼろぼろで中の針が外に飛び出している。雑多な生活用品が
詰め込まれているらしく歯磨き粉チューブ(8割がた使用済み)とか
顔を覗かせているしそこに入りきれないものはスーパーマーケットの
ビニール袋にいくつも詰め込まれてカートの持ち手のところにぶら下げて
あった。これじゃあ綾ちゃんがホームレスの人と間違えたのも無理はない。
本文と関係ありませんが本日ニコラウス アーノンクール氏
の訃報を知りました。偉大な、偉大なマエストロです。
彼の古楽器バッハ全曲集のCDは偉業です。
ご冥福をお祈りします。
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