2013年7月16日火曜日

トマト



       中国人はよくトマトを食す。これは意外だった。



 これまで都合、三人の中国人女性の料理を交互にほぼ毎日食べてきたが、二、三日に
一度はトマト料理を口にすることと相成っている。三人とも北部中国(ハルビン市)の
出身なので名物料理?(?北部だよ??)なのかもしれない。


 ぶつ切りにしてスープにぶちこむパターンが多い。卵は必須。このコンビネーションは
炒め物でもたびたび登場する。あっさり塩味。


 ある日のこと、朝一番に台所で患者さん用のお茶を淹れているところに、突然ドクターが切羽詰まった顔でやって来て、



    『吉岡さん、何か食べるものありませんか?』



と、のたまわった。先生はいつも奥様の朝食弁当をお持ちなのだが、今日は何かの
手違いか誤解があったにちがいない。



 だが残念ながら何も無い。ひととおりの材料なら揃っているからそれで何か簡単なものを作ってあげることは出来るのだけれど、それって「出過ぎた」行為かな?一瞬の逡巡が頭をよぎる。


 が、先生はざっと冷蔵庫の中身を見渡したあとおもむろにこういった。



       『吉岡さん、トマト切ってください。』




ああ、それはナイスアイディア。ぐずぐずしてると患者さんたちがなだれ込んで来るもんね。ドクターはその野獣の風貌に似つかわしく何でも生で齧る。大根でもセロリでも
塩もつけずにばりばりぼりぼり。



 でもね、私は日本人主婦なの。私のプライドにかけてそんなもの出せないの。んで、
とりあえず大ぶりのトマトを2個急いで洗って一口大に切り、中華風(和製中華だけど)
ドレッシングを素早く作って手早く和えお皿に盛って持って行ったの。



 やれやれと元の仕事に戻っていたら3分もしないうちにドクターがまたしても台所に
駈けてきて(もう、こっちの仕事の邪魔すんなよう!)吠えた!本当に吠えた。


     『美味い!吉岡さん!本当に美味かった!!もう一皿作ってください!』




 もう、吹き出しそうになっておかわりを作ってあげました。



 数日後、私が花の水やりにドクターのお部屋に入ると大きなボウルに山盛りのトマトが
置いてあるのを発見した。トマトを齧りながら文献を読んでいるんだな。トマト生食が
マイブームと化してしまったようだ。



 結局、私の特製ドレッシンングよりトマトの美味に感動しただけだと知り
ちょっと傷ついた。





        トマトと卵のスープ。キュウリの薄切りが浮かぶことも。


        


                トマトと卵の炒め物。



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