彼女が事件の起こった日の前後、その界隈で遊んでいるのを見たと
証言した人がいたらしい。噂には尾ひれが付き何の証拠も無しに皆が
その説を信じた。もちろん彼女はまるきり身に覚えがない。
彼女は町の中央に連れ出された。村人たちが見守るなか彼女の父親は
薪に火をつけ彼女の肩口にその火を押し付けた。公開懲罰だ。
彼女はこの瞬間、それ以前の全ての記憶を失った。
今からおそらく50~60年ほど前の或る国の片田舎。ぎょぎょ。
横溝正史ミステリーの世界じゃあないか?
これらの記憶は彼女が綾ちゃんに言われて順々に思い出をたどって
いくうち不意に甦ったもので、こんなことがあったこと自体、彼女は
すっかり忘れていたそうだ。この事件以前のことは何も思い出せないし
この事件を境にしてぼんやりとしかその後の少女時代を生きてこなかった
ように思うと彼女は言った。
『今にしてみれば理解るんです。父は私を憎んでいた訳でも私を
犯人だと信じていた訳でもなかったって。狭い村社会で起こって
しまったいさかいを終わらせるために、皆に納得してもらって
またいつも通りの日常に戻すためのけじめとして見せしめが
必要だったんだって。
もちろん当時の私がそんなこと解る訳もなく必死で全てを忘れる
しか生きていく方法がなかったんですね。』
彼女は綾ちゃん(と綾ちゃん夫も同席していた)の目の前で 泣きに泣いた。
近所のスーパーマーケット
こちらにも藤の花は結構あります。
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