2013年1月22日火曜日
シャボン玉 飛んだ ⑧
『先生!お誕生日おめでとうございます!』
初夏の香り立つ6月、先生はお誕生日を迎えた。正確に言うと
今年のお誕生日は日曜だったから私がプレゼントを渡したのは翌日だ。
ず〜っと悩んで巻き寿司をお重にいっぱい詰めた。これが私からのプレゼント。
みんなで食べれるし、大げさすぎないし、それにお医者さんが相手じゃ何をあげるに
しても予算不足だし、心を込めたごはん、これでいこう!と思ったんだ。
先生は私が先生のお誕生日を知っていたことにまずびっくり。そしてとっても喜んで
くださった。お昼にコスタリカ島の彼女(彼女の話はいつか必ずします)と3人で
お祝いした。
『昨日はご家族皆さんでお祝いなさったんでしょう?』
先生『いいや、実はほとんど忘れてたよ。ハルさんの具合があんまり悪いんで
病院につきっきりだったからそんな気になれなかったんだ。』
私 『あの、ハルさんの病名ってやっぱりMS(多発性硬化症)だったんですか?』
先生『ふざけた話でね、おとついまでMSだと言ってたのに一夜明けたら白血病だと
言うんだ。化学療法だよ。』
白血病。化学療法。先生の憂鬱が一瞬にして私にも伝播した。それは頭の中で
閉店のシャッターがジーッと音を立てて閉まっていくような感覚だ。
これは私たち自然療法をやるものにとってほとんど最悪の状況だ。我々の立ち位置が海に
浮かぶ「島」ならば西洋医学という大陸からどれほど遠くに孤立した場所なんだろう、
私たちって。とおいとおい地球の裏側から手漕ぎのボートで大陸目指して近づくようなものだ。先生たちが今、ハルさんにほどこしている『治療』は。
それでも毎日のように病院に通っていた。お見舞いのためではなく出来うる限り我々の
ベストを尽くすために。
(つづく)
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