2013年1月23日水曜日

お別れ






      出会いがあれば別れがある。さよならだけが人生だ。




 『今までありがとう。私のウサギさん。前回お話しした通り、今日で一旦、
 治療を打ち切ります。あなたには本当に親切にしてもらいました。
 また期間をおいて伺わせてもらうことになると思います。これ、少ないですけど
 取っておいてください。』
そう言われてビルさん(仮名)から封筒をいただいた。

 ああ、ああ、ただただ無力感。なぜだか私のことをいつも「ウサギさん」と
呼んでくれた彼は三ヶ月にわたる治療の後ここを去っていく。
多発性神経障害を煩う彼はうちの治療で結局さしたる成果を収めることが出来なかった。
両足ともにほとんど感覚が麻痺していて杖を使いながらゆっくり歩いていらっしゃる。


 治療を開始した時には鍼を打っても痛くも痒くもない。指圧のときに足の裏をどんどん
たたいても何も感じないとおっしゃっていた。両足ともに血流が悪くおそろしく冷たい。一ヶ月後、力を込めて足裏をたたいていたら『わかるよ、わかるよ、足の裏をたたいているね。』とおしゃってくださった。ものすごく嬉しい。こんな風に誰かと喜びを共有できるなんて私ってなんという幸せ者だろうとしみじみ感じ入ったものだ。
今日は足に触れたとたん『ああ、私のウサギさん、こんなに暖かい手をしてらしたん
だねえ。』と言われて涙が出そうになった。



      でも時間切れだ。


 うちの治療費は高い。よそのプライベート医院に比べればずいぶん安く設定してあるが
それでも通い続けるとなると日本円で数十万円は覚悟しておかなければならない。


 彼は最初から予算を設定していた。収入の当てのない年金生活者だから。



 こんな風にきちんとお別れをしてくださる患者さんはむしろ少数派だ。
成果がでない時は嫌な辞め方をなさる方もいらっしゃる。
私は会計を担当していないけれど、そちらでもめてるケースも多々あるらしい。
(誰ともめてるかなんとなくわかる。そういうものだ。)



 そして患者さんはいつか私たちという通過点をくぐり抜けていく。



 あと私たちに出来ることはただ祈ること。どうか、どうか、良くなりますように。



    どうか、どうか、少しでもその重荷が取り除かれますように。



         どうか、どうか、どうか、、、。




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