2013年1月28日月曜日
シャボン玉 飛んだ ⑪
ヴァイスさんは毎週火曜日と木曜日の早朝やってくる。
出勤前で7時過ぎにはいらっしゃるので私も早起きだ。
警察官の彼はものすごく時間に正確で約束の時間15分前には
必ずいらっしゃる。そしていつもなら私とヴァイスさんの準備が
整った頃ドクターがやってくる。
けれどその日はちがっていた。6月も終わりに近い木曜日のことだった。
『今朝3時のことだった。私は6時に彼に会って来たよ。
私のドイツにおける一番の友人が今日、亡くなった。』
先生が今日はずいぶん早くやって来てそうおっしゃった。とうとう
この日が来てしまった。ハルさんがお亡くなりになったのだ。
ショックを隠せない私に向かって「とにかく仕事をやりなさい」と
手振りでおっしゃるのでとりあえず黙々と仕事をした。
頭の中でお悔やみの言葉やなんて言って先生に
励ましの言葉を言えばいいのかドイツ語がぐるぐる回る。
先生はと言うとなんと一生懸命診療室の家具を動かし始めて部屋の模様替えを(!)
し始めた。こんな時になんだが、戦闘前の熊(実際に見たことないが)みたいだ。
こういうやり方で心の動揺や苛立ちを沈めようとしているのだろうか?
場合が場合なので(私は自分の仕事が忙しいということもあり)私はどういう
リアクションをとったらいいのかさっぱりわからない。
ドイツ人の人はとりあえず手を握りあったりハグしたりする(実際このあとうちに訪れた患者さんたちは皆そのようにしていた)が私はどうもその手のボデイーコンタクトが
苦手でとてもそんなことは出来ない。
ヴァイスさんがお帰りになられたあと私はやっとのことでいくつかのお悔やみの言葉を
口にした。どれもありきたりな常套句で、それを口にしたとたん、心の中にある「想い」がぽろぽろ壊れて崩れ去っていくようだった。パチンとはじけて。ああ、人の想いを伝えるというのはどうしていつもこんなに難しいんだろう。
そう、シャボン玉がはじけるように。
(つづく)
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