2013年2月8日金曜日

スッポンとスッポン  躁鬱編



       最近疲れている。



 ものすごく「疲れる」患者がいるのだ。しかも二人。二人とも
最近来院し始めたのだが、とにかく私は彼らとの会話の一言一言にものすごく
エネルギーを消耗させられる。患者さん十人分まとめて治療したあとみたいに
ぐったりしてしまうのだ。


 どう大変って、片一方はとんでもない鬱病患者みたいな奴でもう一人は
信じられないハッピー男なのだ。ハッピーな奴は相手するのも楽チンに思えるかも
知れないが • • • まあ、どう大変かは追って話をしよう。


 だがふと妙な符合に気がついた。この二人、同じ会社だ。ミュンヒェンを
代表する世界的な自動車会社BMWの製造部門、つまり工場勤務の人だ。
二人の話を聞く限り同じ場所に通勤している。実は職場の同僚だったりして。
まあ、工場と言ってもべらぼうに大きいらしいから互いに全然知らない
確率も高いんだけどね。
もちろん病院の職員が他人のうわさ話なんてしないから、私だって
『あら、○ ○さんご存知?』とか片方に向かって言ったりしない。
お二人さん、初診の時期も通院の時間帯も似ているのにニアミスばかりで
互いにうちで顔を合わせたことも無い(と思う)。


 他の条件も似ている。年齢も40歳くらい。それぞれ出稼ぎ労働者
(ルーマニアとアルジェリア)で離婚歴がある。花嫁さん募集中。


  こんな「妙な合致」に気がついてからと言うもの、なんだかジキルとハイド
 みたいに(例えが正確でないけど気分だけ分かって!)精神分裂の同一人物が
 変装して交代ごうたいに私をたぶらかしに(!)来ているのではないかという
 幻想に捕われるようになったのだ。



 ただ、二人の抱えている病気は違うし、現在の経過もかなり違う。



 私にとってこの二人の印象が大変似ているのはただただ、「話し相手を
疲れさせる名人」であるというその一点に尽きる。
彼らの話をしよう。



(つづく)


風のない湖のほとり。心の中もいつもこんな風に穏やかでいられたらなあ。            
                                                                        (Photo by Jiro Yoshioka)

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