2013年2月1日金曜日
シャボン玉 飛んだ ⑭
毎日10人以上の女性の裸体を見ている先生はしかし、
自分のメタボな身体を見られることには抵抗があったらしい。
のちに冬が間近に迫った頃、今度は私が風邪を引いて鍼を打ってもらう
羽目に陥るのだけれど、やっぱり私も職場の上司に裸を見られるのが
イヤで肩からつま先までびっちり毛布にくるんで絶対見せなかった(?)
もんね。
ということで先生は最後までズボンを脱ぐことは強硬に拒み(あはは)
わたしは背中をゆっくり指圧してのちにお灸してあげた。
先生は恥ずかしかったのかいちいち私が背中に触れるたび経絡(つぼ)の
解説を高らかに(おいおい)し始める。
『私ごときがわざわざいうことじゃないですけど、治療家は患者さんから
外邪(病気のエネルギー)をもらいやすいものなんですよ。
ちゃんと定期的に毒出ししないと。』
ゆっくりゆっくりマッサージしてあげるうち、先生は静かに寝息を立て始めた。
やったね。少なくてもあと一時間半はお昼寝できる。頭に枕を差し入れて、
抜き足差し足部屋を出て行った。
午後一番の患者さんがいらっしゃったが私が対応して先生には知らせなかった。
自分の出番が終わって先生のお部屋に行くともう先生は身支度を整えて
黄帝内経の解説本を読んでらっしゃった。いつもの穏やかな表情に戻っている。
『今日は本当にありがとう。フラウ ヨシオカ。おかげで元気になったよ。』
っていうか正気に戻ったって言うのが正確な表現だと思うけど、とりあえず
よかった。
ドイツらしからぬ蒸し暑い日々が続いたけれど私たちは毎日病院の受付に
ろうそくを灯し続けお香を焚き続けた。
(つづく)
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