その方はその日の朝、二番目の患者さんだった。男性。
昨日が初診であったが夕方の綾ちゃん不在時。つまり、綾ちゃんは初対面の人だ。
その方がいらしたとき綾ちゃんは最初の患者さんのお灸をしている最中だった。
綾ちゃんが奥の部屋から戻ってくると、ドクターが二番目の患者さんのためにお灸に
火を灯しているのが目に入った。すでに鍼を打った後らしい。
『先生、こちら、お灸終わりました。次の患者さんは私が引き続き
やりましょう。』
やりましょう。』
いつものやり取りだ。が、しかしその日はドクターの応対がいつもと違った。
『あ、いいよ。僕がやるから。』
え??いいの?あるいはV.I.P.か?時々、いかなる治療もドクター本人からでないと
「許さない」患者さんもいらっしゃる。まあ、ここはドクターの名前で看板挙げてる
訳だからそれもいたしかたないが • • • などと想い描いた数秒間をドクターは
あるいは別の意味に解釈したのかもしれない。私がいつもの仕事を「させてもらえ
なくて」「不満に思っている」とかね。例えば、よ。例えばの話。
ちょっぴり複雑な、というか何となく妙な表情を顔に漂わせながらドクターは
一瞬の逡巡ののち、こうおっしゃった。
『吉岡さん、患者さんのお灸はぼくがするけれど、あなたは後学のため (???)側で見学しておきなさい。』
はあい。よくわからんけど、まあいいや。んで、お灸を持ったドクターの後について
一番の治療室に入った。お灸はいつもの棒灸。何だか難しい「ワザ」でもあるのか?
ドクターはお灸と灰皿を一旦洗面台に置き、医療用ビニール手袋を取り出し
両手にはめた。んん??何で?そして患者さんの下腹部の毛布をそっと持ち上げる。
これは全然珍しい事ではない。下腹部の太陽叢にお灸をあてるのは補陽、
つまり生体エネルギー補給の第一歩だからしょっちゅうだ。が、恐ろしい事に
その患者さんは下着を着用していなかった。このケースは初めてではないものの
実際珍しいことだった。ドクターはおもむろに患者さんの足を広げさせ
患者さんの「ブツ」を持ち上げ(ああ、それで手袋!)その「裏側」に
当たる部分をお灸で暖め始めた。ここは何ていうツボなんだ!?
そのツボの名前はいまだにわかりません。
その時のドクターの説明によると、この患者さんは重度の前立線炎で
ここが一番のツボなんだけど鍼を打つよりお灸で暖めた方が効果的との事。
綾ちゃんは5分ほど見学していたがこれ以上見るべきものは無いと
判断、『失礼します。』と言い放って退席した。
受付のパソコンで早速検索してみたがイマイチわからん。尋ねる勇気もない。
でも、これって、やっぱり一種のセクハラ?それともクールにお仕事って割り切る ものかな?いつか綾ちゃんも「は〜い、失礼しま〜す」って言ってあんな風に
しなきゃいけない日がくるってことかな?
「ざ•つぼ」より ううん、わかったようなわからんような
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