『ねえ、手ば握っちゃろうか?(手を握ってあげましょうか?)』
この一言を聞いた時、我が耳を疑った。
母が父に向かって就寝の際にこの一言を発したのだ。
もちろん聞いていないふりをした。
綾ちゃんママパパは昭和ヒト桁世代で、とにかく身内に愛情表現など
しない。特に母は素直じゃないのが特徴でいちいち本音と反対のことしか
言わないヒトだった。
長崎は坂の町
認知症が始まってから母は誰に対しても敬語を使うようになった。
目の前にいるほとんど全ての人が、実は誰だかわかっていないのだと思う。
目も良く見えていない(白内障の手術の予後は良好ですっかり良く見えるようになった
と言っていたのも束の間だった。)からなおさらだ。
いちいち尋ねるわけにいかないので安全策でとりあえず敬語を使うのだ。
たった一人、何時間離れていてもたとえ良く見えていなくても
父のことだけは判るらしく、安心して気安く呼びかけている。
父が26歳で独立する時に役所から妻帯者でなければ営業許可が出せないと
言われたので慌てて母と結婚する段取りになった。母は思いもかけず
18歳でお嫁に来る。
60年以上連れ添っているわけだ。
父が現状に応えて実にまめまめしく母の世話をする姿が印象的だった。
九州男児で家事などしたことのなかった父。日常の母との会話は全て「おい」で
済ませていて夕食のおかずを大皿から取り分けるのも母まかせ。ここで男が動いては
沽券にかかわるとばかりにふん反り返っていたっけ。
実は大変行き届いた介護施設(実家から徒歩5分。全て綾ちゃん姉が手配済み)への
入所予約が取れているのだが綾ちゃんママは頑として承知しない。
ホームだけではなくデイケアなどの全ての介護を毛嫌いしている。
父が母の担当医から受けた説明によると、いづれ遠くない将来、
選択の余地なくなる時期が来る。それまでは様子を見ましょうということだそうだ。
確かにどれほど高級介護施設だろうと我が家に勝る場所はない。
今を大切にと
一生懸命生きている二人の姿が本当に眩しかった。
今日は母の日。
綾ちゃんも今日は母にピンクのカーネーションを贈りました。
お母さん、ありがとう。
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