そのご婦人はオーストリアの某音大教授夫人で半年前に夫と死別
なさったばかりだった。声楽がご専門(ご主人)とのことだったが
会話が弾むにつれ、綾ちゃんと直接、間接の知人があれこれいることが
わかっていやー、イッツ ア スモールワールドの感に打たれたりして
すぐに仲良くなった。彼女はご主人を生涯こよなく愛しまた尊敬していた分の
喪失感が大きく、またそれ以外にもここ数年のうちに次々と周囲の愛する
人々を(その中には綾ちゃんの知っている名前もあった)亡くしたショックの
ただ中にいらした。
彼女の症状は右足(そう、彼女も右足だった)の奇妙な痛みで他はまるで
健康。整形外科でCT等検査を行ってみたが特に器質的な異常は見られず
鎮痛剤、ステロイドにビタミンやミネラル剤を処方されたのみで
鎮痛剤以外は効果を見せずまた鎮痛剤に頼るのも嫌だということで
来院なさった方だった。
ドクターは彼女との問診が終わると引き続き治療を開始。熱心に
幾つかの経穴本と首っ引きになった。
綾ちゃんがとりあえず痛む場所をさすったり揉んだりしている脇で
ページをめくりながら時々質問する。喉の渇きはないか?夢見が
悪くないか?尿の色は?などなど。
綾ちゃんはとりあえず太陽叢のお灸に切り替えてお腹を温め始めた。
ドクター、中々ピタリとくる処方に出会わないらしく難しい顔をして本に
顔を埋めている、、、と、つと顔を上げてのたまわった。
『原因はご主人がいらっしゃらなくなったことによる触れ合いの
欠如ですね。精神、肉体、両方の心の渇きがホルモンに作用して
います。』
あっと驚く早業でドクターは彼女の下着をおろして(!?)あろうことか
局部にぽんと鍼を打った。さっと下着を元に戻して、綾ちゃんの方を向いて
『鍼を抜くとき今の場所に鍼があるのを忘れないようにしてね。』
と言い置いて(他の場所もひょいひょい打ったけど)出て行った。
私たちは雷に打たれたようにその場にカタマッテしまった。
息子に教えてもらったゲーム。
秋の東京が舞台なんだけどこれがいかにも
ガイジンの目に映る日本の風景。
見慣れてくるとそれらしく見えてしまうのがコワイ。
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