綾ちゃんは実は地震をほとんど知りません。ドイツ人にこう言うと
びっくりされるけれど本当です。綾ちゃんが日本で暮らしていたころの
福岡は地震が来ないことで有名な県だったんです。綾ちゃんがドイツに
来たのは1994年の体育の日10月10日でした。21年以上前に
なるんですね。
綾ちゃんはフランクフルトの日本企業に夏に雇われてすぐ渡独するはず
だったんですけどドイツのお役所の手違いでヴィザがおりるのが遅れて
秋まで待たされたんです。綾ちゃんはその年の夏、バイトも全て辞めて
しまってスタンバイ状態でぼんやりする日々を送っていました。
ヴィザがおりたら翌日にでも飛んできてほしいと言われていたので
何をすることもできず思いもかけず暇を持て余していました。
テレビをつけると松本サリン事件が画面を賑わせています。
綾ちゃんが本格的にドイツ生活を始めて3ヶ月後の1995年1月17日
淡路神戸大震災が起こりました。当時はネット社会ではなかったので
会社の会議室に設えてある大画面のテレビに映るドイツメディアの
テレビ報道を、まるでこの世の果てを映す鏡のような面持ちで眺めていたのを
思い出します。高架が丸ごと壊れた映像。壊れてしまった大都市。
そのショックから醒めやらぬ3月20日、地下鉄サリン事件が
発生しました。現場はあのまま綾ちゃんが東京にいたら自分も巻き込まれて
いたかもしれない地下鉄構内で、もう綾ちゃんがいなくなってしまった
たった数ヶ月の間に一体ニッポンはどうなってしまったのかもう
訳がわからない、そんな混乱の中に魂だけが放り込まれて身体は
ドイツで何事もなく仕事に追われる。今とあまり変わらない日々がすでに
始まっていました。
やはりあの時から日本は、綾ちゃんの知っている日本とは違ったものに
なってしまったのかもしれない、というスリップ感を不思議に持っている
綾ちゃんでした。
続きはまた明日。
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