2016年4月3日日曜日

親しさの落とし穴(綾ちゃんドイツ語講座)




    いよいよドイツに旅行で行くということになってワクワクしていた
   大学2年の春。やっぱりあの記述はおかしいんじゃないかなあと疑い始めていた。
   ドイツ語で主に使うべきは敬称のズイーだという教科書の文句。大学の
   研修旅行プログラムには一週間のホームステイが組み込まれていた。ここで
   主にそれまで勉強してきたドイツ語をとうとう試す時が来る!でも「ホーム」
   な訳だから全部親称ドウーを使うに決まっている。


    もちろん家庭内ではドウーの連発だった。二度目にバイト代を貯めて赴いた
   修士課程一年生の夏休み、ハイデルベルク大学のサマーコースでも全てドウー。
   要するに旅行やらで初対面の人と話す時以外はほとんどいかなる時でも
   ドウーばかり使う。



    これで綾ちゃんのドイツ体験が終わってしまっていたら、今頃綾ちゃんは
   日本でドイツ語の教師として生徒たちに「教科書にはそう書いてありますけれど
   実際にドウーもよく使いますからきちんと覚えましょうね。」なあんて言って
   おしまいにしていたことだろう。


    このころの綾ちゃんは親称、敬称問題についてはその入り口にすら着いて
   いなかったのだ。この問題と正面から取り組むことになったのはドイツで
   社会人になったからだ。



    綾ちゃんは日本企業だったから(当時)上司は全員駐在日本人だった。
   しかも誰一人ドイツ語は話せないから公用語は英語。ドウー、ズイーなんて
   関係ない。そして同僚。綾ちゃんの職場は職場自体が若くってドイツ支店
   設立3年目だった。スタッフも全員若い。当然、誰もがお互いにドウーで
   話した。綾ちゃんはドイツ人からはアヤコ、と呼ばれ日本人女性からは
   アヤコさん、と呼ばれた。上司と男性、家庭持ちの女性からは苗字で
   呼ばれていた。なんとなく自然な成り行きでそうなった。



    ところが、3年間ほど経つうちに最初は和気藹々に見えていた職場の
   人間関係に亀裂が生じ始め細かい対立があらわになるようになった。
   それと同時に親称ドウー、で呼ぶことを悔いるようになってきた人物が
   現れたのだ。二人の人物だった。


      その二人が二人とも純然たるドイツ人だった。




今年も出稼ぎアイス屋さんがイタリアから
やってきて開店しました。ドイツらしい春の訪れです。



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