2012年11月11日日曜日

事件ファイル 不法臓器売買疑惑? ②




    これって結構なプレッシャーだ。



 毎日楽しく働く病院。私は先生からも奥様からも
とっても可愛がられて大切にしてもらっている。それは
誰より私自身が痛いほど感じてる。



 中国人を信じちゃいけない。中国人は平気で嘘をつく。
あなたも気を付けなさい。色々な人から言われた。

 でも大丈夫。私は自分に自信があるから。そう思って来た。
私だってだてに20年海外生活をしている訳じゃあない。いろんな
国籍の人たちとコミュニケーションを持って色んな体験をして来た。
子供っぽい感傷で「先生たちはそんな人たちじゃあない!」なんて
叫ぶつもりはない。人の価値観も人生も様々だし彼らの全てが
わかっている訳じゃあない。



 中国人の中でたった一人の日本人として働くことに不安が
なかった訳ではない。けれど自分なりのルールを持って、
もしも倫理•道徳上相容れないことがあればそれはそこまで、
ご縁がなかっただけのことだ。静かに去っていけば良い。
万一の覚悟は出来ている。



 そんな想いを秘めて来た。今、それが問われることになるのか?



 私、夫に病院の臓器売買疑惑を指摘されてから必死でネットを
検索し始めた。ままよ、何かの間違いであって欲しい。
私はここで働き始めてからやっとで8ヶ月になったばかりなのだ。
全てを終わりにしたくはない。ましてや先生方の運命を変えてしまう
端緒になどなりたくない。



 • • • • • 1時間後、ひとつの可能性を思いつく。




「プラツエンタ、プラツエンタ、プラツエンタ!!そうだ、プラツエンタだ!」



 プラツエンタ(日本ではプラセンタ)とは胎盤のこと。そうだ!
それなら話はわかる。簡単なことじゃないか。
分娩時に胎児とともに出てくる胎盤は、日本でも出産直後に食する
習慣のある地方がある。ガンマグロブリンが豊富で免疫力を高めるのだ。
私が病院で見たあの「薬」はとても大きかった。子宮は通常ならば
大人の握りこぶし大の大きさであるはずだ。つじつまがあっている。
私はあの時奥様と話をしただけで先生とは話さなかった。先生なら
ドイツ語で正しい表現をしてくださるはずだ。



 きっとそうだ。なあんだ、よかった。私はほっとして泣きそうになった。
先生、奥様、ごめんなさい。ほんのわずかでも疑ったりして。心の中で
謝る私。
ああ、もう、こんな時間だ。早く寝よう。明日も早い。



 翌日、手が空いたタイミングを見計らって先生に話しかける。あの、
昨日みんなでカプセルを作ったあのお薬ですけど • • • 。


先生は破顔して『ああ、あれは高かったんだぞう。すごくいい薬なんだ。』
私  『あれってもしかして • • • ?』
先生 『プラツエンタだよ。ガンマグロブリンが豊富で免疫機能を高めるんだよ。』
私  『やっぱり〜!良かった〜!実は昨日、奥様があれは子宮だって
   おっしゃったんで一体どういうことかと思ってたんです。』
先生 『なんだとお〜!あの馬鹿が!!』



 先生奥様に怒ってらしたけど、冷静に考えると
子宮(ゲベアムター)という単語を最初に持ち出したのは私で、
奥様はムター(母親)としかおっしゃらなかった。
胎盤はドイツ語でムタークーヘンだ(プラセンタはラテン語)。
勘違いしたのは私の方なのだ。



 ああよかった。今日も元気に働ける。きっと明日も元気に
働ける。みんなと仲良く働ける。


 当たり前の幸せな一日を送れるのだ。 





 



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