2012年11月3日土曜日
あの世の存在を信じる彼女
『ねえ、あなたは生まれ変わりを信じる?』
ガルミッシュの彼女は初対面の私に開口一番そういった。
『ええ、もちろんです。私は日本人だし一応仏教徒だし
(信心深くはないけれど)。日本だったら、普通の会話で
私は生まれ変わったら何になりたいとか私とあなたには
前世からの縁があったのかもなんて話したりしますよ。』
『私はクリスチャンなんだけど、カルマ(前世の業のことわり)
だけは固く信じているの。
でも、こんな話をしても変な目で見られるだけ。』
そうなんだ。宗教を失って久しいドイツ。宗教なんて
今となってはあるのかないのかわからないような日本。
(これについては色々異論もあるとは思いますが
私は印象としてそう思っています。)
けれどそれぞれ固有の歴史と背景が刻み込まれた二つの国。
人々の何気ない会話や小さなタブーの中にそういった思想と
その残像をくみ散ることが出来る。
『私は主人と離婚してもう30年以上たつんだけど主人は医者だったの。
もう、べらぼうに頭がよくって仕事ができる男前だったのよ。彼の
お父さんも医者でお母さんはピアニストだったの。だから彼のピアノの
腕前もそれはそれは素晴らしいもので、もう、私なんかすぐに参ってしまって
結婚しちゃったんだけど、あれはどう考えても大失敗だったわ。
彼はとにかく自分のことしか考えられないエゴイストで家族のことも
何も考えない冷たい人だったの。息子に会いに今でも来るけど、ついこの間
会ったときには、今の奥さんが自分の言うことを聞かないって愚痴ってたわ。
今の奥さんが4番目の人だからいい加減に少しは気づけばいいのにね。』
『それはそうと主人のお父さんの弟がね。私たちが結婚する少し前に
亡くなったの。あの家族はみんな芸術肌でその人は水彩画が趣味で
きれいな風景画を描く人だったの。彼の絵を立派な額縁に入れて
飾っていたんだけど私たちの結婚式の日になんのいわれもなくその
額縁が壁から落ちて壊れちゃったの。
不吉よね。義理の伯父に、アイツと結婚してもうまくいかないよ、って
言われてるみたいだった。
不思議に割れたのは額縁だけで絵はまっさらなまま。そしてその絵は
その後、3回不吉な事件を予言することになるの。主人のお母様が
お亡くなりになられた時も絶命したまさにその時刻に落ちて割れたわ。
わたしたちはお母様の容態が急変したことすらそもそも知らなかった。
でも、なんといっても絵のチカラを知っているじゃない?
だから手当り次第に親戚や友達に電話をかけてみようと思って
まずお母様のところへ電話したらなんと的中だった訳よ。
あの弟さんは天国へ行ってみんなのことを見守ってくれて
いるんだと思うと、気味悪く思うどころかなんだか
暖かい気持ちになってね。』
『例えばこんな話ひとつをとっても`あの世`はあるって
私が信じていることをわかってもらえるでしょう?私、基本的に
宗教はどれでも同じことを教えているんだと思うの。
神という言葉を使うのかどうかが問題じゃなくって、
私たちが何らかの魂の向上を目指して生々流転を
繰り返しているのだということ。死ぬのは無ではないのだということ。
これが大切なことなのよね。』
ガルミッシュの彼女は治療が終わると治療台のベットを
きれいに元に戻して部屋を整理整頓して退室してくれる。
(彼女は観光地ガルミッシュのペンションのオーナーでも
ある。)こんな風に強い信仰心を持っている人は裏表がない。
他人が見ていても見ていなくてもきれいに後片付けを
していく人だ。
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