2012年11月17日土曜日
心の傷 ①
心の傷口は目には見えない。
あからさまに目に見える傷なんて嘘っぱちだ。
私のようなたかだかちょっぴり医学をかじっただけの
人間でさえこれまでの10年ちょいの間に色々な人の健康の悩みを
聞くことになり、その際驚くべき「過去」たちに出会って来た。
そんな物語を抱えて生きている人たちは皆、一様に普通に穏やかに
生活している。ただ、封じ込めきれない想いが思いがけず
「症状」の形をとって現れるのだ。
こういった病気は往々にして西洋医学では完治しない。
彼女のケースもまさにそうだった。しとやかで明るいとても
感じの良い女性だった。さらさらの金髪を肩まで伸ばしマシュマロの
ような色白のほほで微笑みかける。誰からも愛されるタイプの人だ。
彼女は咽頭に良性腫瘍が出来てオペで切除するも腫れがいっこうに
収まらない。今日で7回目の来院。症状は一進一退を繰り返していたが
前回、突然悪化。のどに異物感。
プロストさん(仮名)『手術が終わってからそろそろ半年にもなるのよ。』
私 『そうですね。あなたのようにお若い方の場合は回復も早い
はずなんですが。』
プロストさん『ねえ、私、普段はとってもポジティブシンキングの人なの。
だけど今回のことでは本当に途方に暮れちゃててどうしたら
いいかわからないのよ。あなたは私のようなケースの患者を
見たことがあるかしら?』
私は自分の識る範囲で、人間の不思議な運命や暗い重荷、遺伝の影響に
ついて語った。例えば私はかつて、幼児期に虐待を受けた経験を持つ女性が後に
重症の頭痛に40年以上悩まされ、そのトラウマを解くことで彼女を治癒に
導く手助けをしたことがある。その方も大変な美人で生き生きと毎日を
過ごしていらっしゃる方だった。傍目にはそんな恐ろしい
過去を背負っている人には見えなかった。
すると突然彼女は語りだしたのだ。
プロストさん『ねえ、あなた。もしかしてドクターから私のトラウマについて
話を聞いてらっしゃるの?』
いや〜、まいったな。それを言われると。実はうちの先生は患者さんの話を
誰にもしない。奥さんにもしない。病院内の話なのでここでは守秘義務という
のは当てはまらない。私も治療に参加するセラピストの一員なので本来情報は
共有すべきとも言えるのだ。
陽気で明るく話し好きの先生だから、そして私と先生はとってもウマの合う
コンビネーションだから、何でも話し合っているのだろうと思われがちだが、
実は私は先生と必要最低限の会話しか行っていない。ほとんどが仕事の、
それも実務上のことだけだ。奥様とは女同士の会話もしょっちゅうだが、
先生とは何となく緊張してしまってどうもだめなのだ。患者さんたちの方が
よっぽど先生の私生活なんかよくご存知だ。
特に患者さんの情報について、カルテに書いてある内容には私も目を通す。
が、先生は何事においてもものすごく口が堅い人で私は自分が患者さん本人から
打ち明けてもらったことしか知らない。
私はこれで正解だと思っている。先生が何でもぺらぺらしゃべる人だと
印象づけない方がいい。でも今のこの場面はどうなんだろう?
私が知らないことは是か非か?
とにかく彼女は物語った。きっと私にも知っておいて欲しかったのだ。
彼女の「秘密」を。
(続く)
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