2013年6月19日水曜日

プロフェッサーの友情  ③



    『私はもうこの歳ですし、これまでの人生を思い返して、出来る事なら、
    やり直す事が出来るならばやり直してみたいと思っている事がいくつか
    あるんです。』




 プロフェッサーの口から突然、重い言葉が放たれた。


     『そのKと言う名の日本人は私よりいくつか年上の留学生でした。
     大変優秀な学生でした。不思議な事に普段誰と一緒にいても打ち解けた話を
     しない私が妙に心許せて彼とはしんみりした話が出来たものなのです。彼は
     数年で日本に帰っていきました。あれほどの腕です。きっと日本に帰国後は
     立派なピアニストとして活躍していると思うのです。
     帰国後彼から何通かの手紙をもらいました。しかし何と言う事でしょう。
     私はその彼の手紙に一度として返事を出さなかったのです。彼からの手紙には
     彼の個人的な事柄などが細かく記されていました。私はこんなに親密に
     話しかけてくれる彼をありがたく思いつつ、日々の練習や迫り来る
     コンサートの準備に毎日明け暮れついつい目の前にいない彼をないがしろに
     してしまったのです。彼だって私と同じかおそらくはもっと忙しい日々を
     送っていたに違いないのに。ふと思い出し彼にやっとの事で短い返信を
     出したのはそれから数年後の事でした、が、宛先不明で手紙は戻って来て
     しまいました。』 


   (つづく)


                                     
                                  プロフェッサーはギーゼキング演奏の「夜のガスパール」
        (ラヴェル)がお気に入り。でもアナログレコード派で
         YouTubeから取ったなんて聞いたら怒るだろうな。
       

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