2013年6月9日日曜日

反面教師  ②






 もう、コメントも出来ないひどさだったんだけど必死で頭を回転させながら一体、彼女の施術のどこがどういけないのか分析しながら痛みと不快さに耐えていた。とにかく
ツボどころか基本的な解剖学の知識が頭の中に入っていない、または目の前の施術と
結びついていない。おそらく一つ一つの動作を(どこで誰に教わったのか知らないが)
自分自身で試した事が無いに違いない。例え「センス」がなくとも努力で補えるポイントを全てすっ飛ばしている。想像力とか相手への気遣いとかそういう言葉が頭の中を飛び交っている。



 人間の身体は一人一人体質や感受性が違う訳だからいわゆる「相性」だってある。私自身にしても患者さんから「ダメだし」を食らう事はしょっちゅうだ。うちのドクターでさえ
指圧施術のあと「ドクター御自らの指圧だったんだけど、私は吉岡さんの方が上手だと
思うわあ。」なんて言っちゃってくださる患者さんも(まれに)ある。ただ、今、ここで言う「下手さ加減」はこれとは別次元の問題だ。



 ヒュウちゃんの履歴は確か先生から聞いた限りでは、中国にいた頃看護師さんをしていてその頃研修の一環で指圧の講習を受けた事があるらしい。ドイツに来てからはずっと
指圧のマッサージ屋さんで働いていた。彼女はもう40歳をずいぶん超えているから
今の仕事に就いてキャリアも長い。医学の基礎知識もあって指圧もベテラン、ということで一も二もなくうちの病院で雇われた訳なんだけど、ドクターは彼女の事をあまり気に
入ってらっしゃらないようだった。彼女が辞めたあと聞いたんだけど「ひとつひとつの
仕事に心がこもっていないし、患者さんはすぐそんなの見抜いちゃうんだよ。」と
おっしゃってたっけ。ヒュウちゃんはヒュウちゃんで労働条件に不満があった。
マッサージ屋さんにいた頃の方が稼ぎがよかったなって。私は職業に貴賤があるとか
いう理由じゃないんだけど、どんなにお給料よくてもマッサージ屋さんで働く気には
なれない。健康な人には興味湧かない(!)人なんだ、私ってさ。


 私たちは皆彼女はベテランさんだから仕事を基本から教えてあげる必要なんて無いと
思っていて特に研修のような事をしなかった。仕事の手順を教えただけだ。素人は私の
方だったから皆、当時、私の「教育」に関心が向かっていたのだ。


(つづく)




              手のひらのツボ(左手)







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