あの頃の綾ちゃんは完全に通訳失格だった。通訳というのは
あくまで仲介者だから通訳者の予断を加えてはいけない。多分、
一番大切なルールなんだけど実は(やってみるとわかるけど)
当たり前のように見えて結構これが難しい。のちに他の人が通訳
しているのを見て綾ちゃんも学んでいったことなんだ。
あれ、ドイツ人はこう言っているのにその訳語じゃニュアンスが
変わっちゃうよ?とか通訳者の解釈を入れすぎじゃないか、とか。
そのことを痛切に感じたのがこの時だった。
彼女にはヒーラーの叱咤が届いていないように見えたからだった。
綾ちゃんの通訳が悪かったせいなのか彼女がネガティブな表現を
右から左へ流してしまったからなのかよく分からない。
とにかく綾ちゃんはそのあと彼女と一緒にランチのスパゲッティ
(彼女のおごりだ)をほおばりながら3つほどの、わざと正確に
訳さなかった(訳せなかった)単語が頭の中をぐるぐる回るのを
止められずにいた。
『ねえ、吉岡さん。私ね、今日の体験で決心したの。
この道で頑張ってやっていこう、って。』
綾ちゃんとしては彼女の中の心の変化の相関関係とか論理とかを
いまいちなぞれなかったんだけど、とにかく彼女にとって今日の出来事は
プラスに作用した?らしかった。
ああ、通訳というのは、いや、仕事というのは恐ろしい。スパゲッティ
一皿の報酬でも仕事は仕事、責任は責任だ。
綾ちゃんは自分が満足のいく仕事ができなかったせいで、彼女の
この決心をポジティブな決意と捉えていいのか、トンチンカンな
流れなのか判らず結局自分を責めてしまう結果に陥ってしまったからだ。
ノーベル生理医学賞受賞のト ユウユウさんは
うちのドクターの奥様の研究室の先輩にあたる方だそうです。
もう、ドクター、大喜びでした。
0 件のコメント:
コメントを投稿