そして最後通告が来てしまった。
バーデさんの保険会社は三枚目の請求書の支払いを拒否してきた。
今後の治療に関しても。正確に言うならばうちが扱うプライベート保険適用
治療番号についてキャパシテイーを越えているということだ。プライベート
保険会社が適用しているタリフがあって項目ごとに料金表が細かく定められている。
プライベート医院というのは治療費を勝手に定めて良いが保険会社からの払い戻しは
このタリフに基づくので結局あまり無茶な料金設定は出来ない。請求書を書く時も
各患者さんの特約(会社ごとにも個人でも異なる)を最大限考慮しながら書くし、
請求書を出したあとで患者さんから「こっちの番号では払い戻せないから別の番号に
変えてくれ」など毎日のように電話がかかって来る。うちも出来る限り対応して
いるのだ。
バーデさんの御主人がかなり頑張って保険会社とかけあったらしいのだけど
結局三枚目の請求書はごく一部のみ還付。四枚目からは支払われない、ということで
落ち着いた。お金は払えない、でも治療は継続したい。どうしたらいいでしょう?
と恩情を求めたバーデさんの問いにドクターはあっさり結論を出した。私はこれ以上
あなたの治療を行えません、と。
「人でなし」でも「オニ」でもここいらへんはものすごくはっきりとした
「線引き」をする。これほどシビアなケースでここまで心通わせた人間関係でも
一線を引くんだ。いや、綾ちゃんには出来ないなあ。絶対「情」にほだされちゃう
なあ、と思う。
綾ちゃんは実はドクターがたくさんのケースで「タダ働き」をしているのを
知っている。かくいう綾ちゃんが病気になった時も絶対にお金を受け取っては
下さらない。
毎日顔を合わせて身内のような気持ちになっているバーデさんは
しかしこの限りではない。
ここが辛いところだ。
水曜日にうちの最寄り駅で大事故が起こった。
電車とクレーン車が衝突!運転手さんは重症でヘリで救助された。
幸い乗客は乗っていなかった。が、お陰で綾ちゃんは現在代替バス通勤。
二時間かけてミュンヒェンへ。
車窓はなんだか素敵なんだけど。
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