その日はその時間、すとんと暇になった。
お昼休みも取れない日が多いうちの病院としては素晴らしい成り行き。
午前は朝早くから戦争状態だったのに12時過ぎるとすうっと人が減り始めた。
おお、ちょうどいいかも。15時からはまた予約がいっぱいいっぱい。
綾ちゃんも「定時」に帰れる。やったあ。
その時ロンさんがふらりとやって来た。まあ、ここのところいつもの
ことだから綾ちゃんは特に気にしない。ロンさん、一緒にごはん食べましょ。
ドクターの従姉妹さん、いつものように大喜び。ロンさんを甘やかしたのが
奥様だけじゃなくってこの従姉妹さんも一緒だったのが事態を助長したのは
間違いない。
この彼女、ドクターにとっては従姉妹といってもほとんど妹に近い。
兄、妹と呼び合う仲。大家族で小さい頃は一緒に住んでいた。
離婚(御主人の浮気)と職場の首切りというダブルショックで途方に暮れていた
彼女に3カ月のドイツ旅行をプレゼントしたのはドクターだ。
宿泊費用も飛行機代も何から何までドクターがもっている。その代わりと
言っては何だが病院の方もずいぶん手伝ってもらった。もちろんアルバイト代も
つくから一石二鳥。とはいえ何しろ言葉が中国語オンリーだから気疲れも
多かっただろう。綾ちゃんとも片言の筆談しか出来ない。
だから彼女はことのほかお喋り相手が出来て喜んでいたのだ。
が、この日のロンさんは殊にマズかった。
うちがヒマそうだと見てとるとやおら携帯電話を取りだし中国語で
長電話し始めた。綾ちゃんには内容はわからないけど大声だったし
態度も悪かった。
ちょっと静かにしてもらえるよう身振りで伝えようかと思っていたら
ドアが開いて誰かやって来た。
綾ちゃんは昨日、仕事が終わるとその足でアウグスブルクへ行きました。
迂闊にも綾ちゃんミュンヒェンからすぐそばのこの由緒ある街、
むか〜し一度だけ半日観光しただけで後は何度も素通りしていました。
予定より早く着いたのでぶらぶら町を見学していたら
何と絵になる景色満載。
ふと見上げると誰かが綾ちゃんに手を振っている??
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