2015年12月18日金曜日

本当に引き寄せた?





       案の定危惧していた通りアンナちゃんの職人さんの仕事は
      遅々としてはかどらなかった。約束の3ヶ月が過ぎた頃電話した
      綾ちゃんに、あと六週間かかります。あうーん。こっちは予算的に
      カウフミーテもそろそろ限界。先生は先生で今度はクレモナ(イタリアの
      都市。アントニオ ストラディバリの故郷でヴァイオリン製作の聖地)
      行きを持ち出し始めた。ひええー!そこまでする?どんだけー?(⇦古い)



       そろそろ追い詰められた綾ちゃん。息子のコンクールまであと2ヶ月を
      切っている。とりあえず捜索範囲をバイエルン州圏外にまで拡げるべく
      準備を始めたところで例の職人さんから電話が入った。



       『フラウ ヨシオカ、いえね、新しいチェロはまだなんですけどね、
       実はとても良いチェロを売りたいという人が現れて。以前の私自身の
       作品なんですけど興味ありませんか?』




       あります!あります!なんと所有者は引退したばかりのバイエルン
      放送響のソリストだという。彼が舞台でメインに使用していた宝物を
      売りたがっていらっしゃると。(おそらくもっとすごい逸品をお持ちで
      引退後に何本も楽器を必要としないと判断なさったのだ。)今から
      行きます。すぐに行きます。一時間ちょっとで着きますから誰にも
      売らないで待ってて下さい。




       慌てて息子と家を飛び出した。丁度いい。今日はチェロのレッスン日。
      先生にその足で見せに行ける。綾ちゃんは早足で歩きながら携帯で先生に
      電話をかけて事情を説明した。すると彼は電話口で驚いて、





       『何だって?フラウ ヨシオカ?いいですか、私があの職人さんを
       紹介した時に説明したでしょう?元同僚のチェロが素晴らしかったって。
       それはその彼のことですよ。もしかしたらあなたはこの条件で
       考えうる限り最高の楽器に出逢ったのかもしれない。』





       何てこったい。まさか綾ちゃん、本当に「引き寄せ」ちゃったの?




病院のすぐそば。ゼントリンガー門のクリスマス市。







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