案の定危惧していた通りアンナちゃんの職人さんの仕事は
遅々としてはかどらなかった。約束の3ヶ月が過ぎた頃電話した
綾ちゃんに、あと六週間かかります。あうーん。こっちは予算的に
カウフミーテもそろそろ限界。先生は先生で今度はクレモナ(イタリアの
都市。アントニオ ストラディバリの故郷でヴァイオリン製作の聖地)
行きを持ち出し始めた。ひええー!そこまでする?どんだけー?(⇦古い)
そろそろ追い詰められた綾ちゃん。息子のコンクールまであと2ヶ月を
切っている。とりあえず捜索範囲をバイエルン州圏外にまで拡げるべく
準備を始めたところで例の職人さんから電話が入った。
『フラウ ヨシオカ、いえね、新しいチェロはまだなんですけどね、
実はとても良いチェロを売りたいという人が現れて。以前の私自身の
作品なんですけど興味ありませんか?』
あります!あります!なんと所有者は引退したばかりのバイエルン
放送響のソリストだという。彼が舞台でメインに使用していた宝物を
売りたがっていらっしゃると。(おそらくもっとすごい逸品をお持ちで
引退後に何本も楽器を必要としないと判断なさったのだ。)今から
行きます。すぐに行きます。一時間ちょっとで着きますから誰にも
売らないで待ってて下さい。
慌てて息子と家を飛び出した。丁度いい。今日はチェロのレッスン日。
先生にその足で見せに行ける。綾ちゃんは早足で歩きながら携帯で先生に
電話をかけて事情を説明した。すると彼は電話口で驚いて、
『何だって?フラウ ヨシオカ?いいですか、私があの職人さんを
紹介した時に説明したでしょう?元同僚のチェロが素晴らしかったって。
それはその彼のことですよ。もしかしたらあなたはこの条件で
考えうる限り最高の楽器に出逢ったのかもしれない。』
何てこったい。まさか綾ちゃん、本当に「引き寄せ」ちゃったの?
病院のすぐそば。ゼントリンガー門のクリスマス市。
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