時間が少し前後するが、私とドクター、そして私が後に勤めることになる病院に
ついての印象を語っておこう。初めて私達親子がうちの病院を訪れてから、
日に日に私はここの雰囲気に惹かれていった。
全部屋の壁に直接書かれた毛筆の漢詩。これは全てドクターがご自分でお書きに
なられたものだ。大変な達筆でいらっしゃる。そして、彼の荒々しい風貌に似合わず
毛筆の線の一本一本が柔らかく繊細だった。
『あの、壁のお習字、先生がお書きになられたんですか?』
『そうですよ。』
『素晴らしいですね。私自身はお習字は下手なんですけど、
主人と姑が好きで、特に姑は週に二回写経をするほどなんです。
でもこれほどには上手ではないと思います。』
『何を写経なさってるんですか?』
『般若心経です。』
『ああ、色即是空、空即是色。禅の究極の真理だね。』
私はとつとつとしか喋れなかったが、筆談を交えながら先生と般若心経について
いくつか識っていることを話しあった。現代中国人は簡易中国語に慣れてしまっていて
0 件のコメント:
コメントを投稿