ベルヒ先生は奥様と出会ったことや合唱団をお辞めになったことを
後悔してらっしゃるのかな?
少なくともいくつかのドイツのシステムやドイツ人とドイツの社会に対する不満を
お持ちなのは間違いないようだった。けれど彼の言葉遣いの一つ一つに奥様に対する
深い愛情と尊敬のお気持ちを汲み取ることは出来た。
そしてご自分が音楽家(教育家)として生きていくことに対する誇りのようなものも。
彼は私の指圧を大変お喜びになって、結局その後、ほとんど毎回私の施術を
お受けになった。彼くらいお若い方なら治療の成果も早く来るはずなのだがと
我々スタッフのはやる気持ちを見透かすかのように病状は一進一退を繰り返す。
そしてやって来た時間切れのゴング。
彼はボンへの引っ越しの準備に取りかかる。我々は夏期休業に入る。
ベルヒ先生の最後の治療の日、病院は忙しくあっぷあっぷの状態で私は指圧を
施すことも出来ず、別の患者さんたちの治療室を右往左往していた。でも、
ベルヒ先生にお別れの言葉は言わなくっちゃと思ってタイミングを逃さないよう
気を配っていた。すると最期の治療を終えた先生が受付でドクターの奥様と
しゃべっている声が聞こえてきた。
『有名なヴァイオリニストでね、ユーディ メニューインという人が
いるんです。その人の言葉でね。
"音楽はどんなにたいへんな時代でも、なんとか私たちを
力づけようと、繰り返し繰り返し励ましの言葉をかけてくれる。
深い根底から発した音楽であればなおさらである"
というのがあるんです。私もまさしくそう思います。その音楽を
職業として生きていけるのですから私も頑張っていきますよ。』
私は先生の前に進み出て握手をしながらお別れの言葉を述べた。
患者さんとお別れする時はいつも一緒だけれど、もうあとは祈ることしか出来ない。
所詮無力な自分を噛み締めながら。どうかお元気で。
あなたと私の間に働いた不思議なご縁を想いながら。ありがとうとさようなら。
先生のご活躍を心から祈念しております。
正直言って私はメニューインのヴァイオリンは
良くわからないんですけど彼の奏でる音色に
心酔するファンは本当にたくさんいますよね。
人を癒し力を与える演奏家なのですね。
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