2013年8月23日金曜日

ベルヒ先生〜背景〜




 

           新患のご老人がいらっしゃった。         



 松葉杖をついて奥様に支えられながらゆっくりとよろよろ歩きだ。またしても
重症患者さんみたい。奥様が付き添って何やら外国語でしゃべっている。
この言葉は知っている。かつてうちの子供たちがこの言葉のアクセントを話す女性に
ピアノを教わったことがある。ロシア人だ、絶対。



 新患の場合はいくつかの書類に記入していただかなければならない。そんなケアは
全て私の仕事だ、が、何とこの方ドイツ語全然だめだった。英語もダメみたい。
奥様がドイツ語をお出来になるけれどあまり上手ではない上にものすごいロシア訛り。
いやはや困った。



 すると後から現れたベルヒ先生が彼らに話しかけた。ええ?ベルヒ先生ロシア語
お出来になるの?ラッキー!彼に助けてもらって書類も全部訳してもらった。
先生、ロシアに関係おありなんですか?




ベルヒ先生『うちの妻がロシア人でね。それでロシア語がしゃべれるんです。』




えっ!?あれ!?ベルヒ先生独身じゃなかったの?いつの間にご結婚なさったんだ。






ベルヒ先生『実は妻が身重で、今、5ヶ月なんです。』





おお、コングラッチュレイション!!でも何でそんなに暗い顔してんの?先生??




 ドクターが出てきて言葉を助けてくれたお礼をおっしゃった。私はすかさず、



私    『ベルヒ先生、もうすぐパパにおなりになるんですよ。』



と教えてあげた。ドクターもぱっと顔がほころぶ。けれどベルヒ先生は私たちの
先を制すようにコメントした。



ベルヒ先生『それで私の耳が壊れたんです。』






            ミュンヒェンオリンピア公園は今、夏祭りの真っ最中。
            観覧車のてっぺんから見たオリンピアの塔。
                    Foto by Jiro Y.






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