2012年12月4日火曜日

プロフェッサー  ⑨




 私はプロフェッサーが「これでなければならない」と
思っている「時代遅れの」「オリジナリティ」に富んだ
音楽について知りたくなった。


恐ろしいほど私のピアノ音楽の好みは彼の好みと一致していた。
なあんだ、私も石頭オールドファッション組じゃないの。


 私のようなおばさんでも彼にとっては娘位の年齢だ。
音大はとっくに引退してしまったから久々の「講義」になる。私の施術のたびに
ど素人の私相手に毎日毎回色々な音楽の話をしてくださった。
どの作曲家のどの曲をどんな風に弾くべきか。どんなプレーヤーが
どういう箇所で素晴らしい表現をしているか。
本当は治療の最中はゆっくりしているのがいい。おしゃべりに夢中に
なるのはあまり良いことではないのだけれど(そして実際、一度
ドクターにおしゃべりが過ぎるって二人とも!怒られたりした)
治療のあと一緒にお昼を食べながらYoutubeで今日の話題の演奏を
探し出して聞いたりした。



 こんどこそ治るといいのだけれど。そう思っていたら先生の奥様が
ぽつりと言った。

 『吉岡さんは知らないでしょうけど去年、初めてプロフェッサーが
 うちに来た時は今の病気に加えて目も見えない状態でいらしたのよ。
 鍼と漢方薬でここまでよくなったのよ。』


 そうだったんだ。ピアノが弾けない状態が何より辛いっておっしゃって
らしたプロフェッサー。どんなに悲しかったことだろう。



(続く)


 

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