2013年8月12日月曜日

ベルヒ先生~想い~

  



  時間が少し前後するが、私とドクター、そして私が後に勤めることになる病院に
ついての印象を語っておこう。初めて私達親子がうちの病院を訪れてから、
日に日に私はここの雰囲気に惹かれていった。
   



 全部屋の壁に直接書かれた毛筆の漢詩。これは全てドクターがご自分でお書きに
なられたものだ。大変な達筆でいらっしゃる。そして、彼の荒々しい風貌に似合わず
毛筆の線の一本一本が柔らかく繊細だった。
      



       『あの、壁のお習字、先生がお書きになられたんですか?』


         『そうですよ。』


         『素晴らしいですね。私自身はお習字は下手なんですけど、
       主人と姑が好きで、特に姑は週に二回写経をするほどなんです。
       でもこれほどには上手ではないと思います。』
      

       『何を写経なさってるんですか?』
            


       『般若心経です。』
       

       『ああ、色即是空、空即是色。禅の究極の真理だね。』
    


 

 私はとつとつとしか喋れなかったが、筆談を交えながら先生と般若心経について
いくつか識っていることを話しあった。現代中国人は簡易中国語に慣れてしまっていて
なかなか日本人との筆談が容易ではないが彼は古典に通暁していたため我々の使っている漢字のほとんどを理解した。彼が般若心経を大変深く理解してらしたことが私にはとても印象深かった。




          


高神覚昇「般若心経講義」
名著です。実は私の般若心経に関する知識は全てこの本からの受け売り。



   

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