2015年6月19日金曜日

腹芸なしには生きていけない?

                        



          お客さんたちは特にいぶかしむ様子も無い。このタイミングで
      ドクターの奥様とお嬢様が現れたこと。お洒落して。ケーキと
      シャンパン持って。それは「自分達をもてなすため」だと信じて
      疑っていない様子。





                そう。うちの病院で働くのが難しい最大の原因がこれだ、と
      綾ちゃんは思う。お給料とか労働条件以前に「腹芸」が出来なければ
      ダメなのだ。平たく言えば「空気を読む」。読んで読んで読みまくる。
      カリンさん(前任のドイツ人、仮名)はこんなときどうやっていたん
      だろう?奥様はケーキやシャンパンを本来、一体誰のために持って
      来たんだろう?これからどうするんだろう?やり過ごして早めに
      切り上げてから食事会に行くのかしら?そっちはキャンセルするの
      かしら?綾ちゃん、賭けてもいいけど、この時点でドクター本人さえ
      10分先の我々の行動が読めていなかったにちがいない。



                           ドイツ人なら(多分日本人でも)こんなときにはあっさり「ありがとう!
      残念だけどこれから予定があるので失礼します。」ってすらりと
      言えるんだと思うんだけど、うちのドクターはとにかく場に流され
      やすい人でこのシチュエーションで自分のために来た客人を追い返す
      なんて死んでもできない。だから一寸先の予定がどう変わるか
      予測不能な人なんだ。
      こんな場面で綾ちゃんなんかが「あのー、そろそろお急ぎにならないと。
      お約束がー。」なんて絶対言えない。




                              綾ちゃんは奥様もお嬢さんも次の行動が解らず仁王立ちになって
       いるのが感じられた。にこにこ顔で笑ってはいるけれど。




                            ドクターは(おそらく我々の躊躇を感じて)率先してご飯を運んで来る。
      今日はマイさん特製の肉まんがたーくさん。これっておめでたい
      ご馳走なんだよね、きっと。それ以外にもご馳走がある。さあどうぞ。
      皆で席についてシャンパンを開ける。乾杯!でもドクターも奥様も
      ご馳走には手を付けない。どうぞ、どうぞと他人に
      勧めるばかりだ。何とかこの場をやり過ごして我々は出掛けなければ
      と思っている様子が手に取るようにわかるよ、あーあ。



                           一人のおば様が肉まんを頬張って「うんまーい!」大感激。彼女は
      ご自分の中国旅行の思い出を語り始める。おお、長話の予感。




                              、、とドクター、ちょっと失礼、と言って電話をつかんで奥の部屋へ
      行った。どうやらハルさんのご家族にキャンセル(または延期?夜ご飯
      とか)の電話をかけてるみたい。彼らはドクターにとって家族同然の
      間柄だから迷惑をかけてもいいとの判断のようだ。





         

シャンパンと肉まん、実は良いコンビでした。



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