2015年9月15日火曜日

誰を治すのか、どこを治すのか




    『この子は今は健康なんです。とてもいい子で。明るくて。
    でも私の父は成人して以降、肺炎を患っていてそれはもう、長いこと
    苦しんで苦しんで。私の祖父もそうだったんです。
    私は彼らが苦しんでいたのを知っているので、、家系だと思うんです。
    ドクター、この子が成人した暁に病気にならないようにしてやって
    ください。』 



     そう。この子はものすごくいい子だ。たいていニコニコしているし
    お母さんが必死でドクターとお話し(とんでもない長話だ。毎回。)
    してる間も綾ちゃんと一緒にお魚に餌をあげたりお絵描きをしたり
    している。ドイツ語も英語もわからないのに。ハンガリー語で育てられて
    いる彼は身振り手振りで他者とのコミュニケーションに慣れている。



     綾ちゃんもダテに息子を二人育てているわけじゃないから気付いている。
    軽度だけどこれは育児ネグレクトに近い。よくもまあ、ここまで息子を
    放っておけるもんだと思うくらい息子に構わない。息子は「理解って
    いるから」大人しいんだ。綾ちゃんと遊びつつもお母さんの動静を
    全身で感じている。
    母親は息子の健康を、と言いつつ今、ここにいる目の前の彼のことを
    見ていない。
    将来の心配ばかりしている。




     でも、ようく観察しないとわからないと思う。彼はとっても身なりがいいし
    お母さんとのコミュニケーションにも問題ない。母と子のあり方の「個性」の
    範疇といったほうが適切かもしれない程度だ。







     まあ、中医学はバランスの医学だから体質改善というのは決して
    外れてはいないけどね。ただ、どこからどう見ても健康な子の体質を
    わざわざ不味いお薬を山ほど与えて変えにゃあいかんほどなのかは
    よくわからんなあ。




     お薬やら食餌指導をすると、今度は一体いつまでその生活をするのか、
    何ヶ月、何年経ったら体質改善が完了するのか、決して大変な病気に
    かからない身体になれるのか、どうやってそれを確かめられるのか、
    とどこまでもうるさい。




       どうみても、母親の心の病気だろう、こりゃあ。



     と、綾ちゃんはこっそり思うのであった。






          

          とはいえやっぱり美しいオードリー ヘップバーン





    

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