2012年11月10日土曜日

事件ファイル 不法臓器売買疑惑? ①




   『吉岡さん、これ見て。なんだか当ててみて。』




 先生の奥様がそういった。最近私は薬学博士でもある奥様の
お手伝いで漢方薬剤の調合のお手伝いをしている。
うちは小さな診療所だが奥様のおかげで小さなファーマシーとしての
機能も持っているのだ。
漢方のお薬の材料は種類が豊富なだけでなくびっくりするような驚きの
薬剤もある。この間は竜の歯と書いているものに出くわして仰天したりした。


 さて、今目の前にあるそれは一言で言うと巨大な乾燥あわびだ。とにかく
貝の干物によく似ている。でもずいぶん大きい。大人の手を広げたより
もう一回り大きい。
私  『ええっと、貝柱!それか大きなきのこ!』
奥様 『残念でした、違います。これはずいぶん高価なものなのよ。
    しかもとっても手に入れるのが難しいの。〜の病院の〜。』


たまたまその時近所から工事音が聞こえて来て奥様のおっしゃっていることが
よく聞き取れなかった。どこか病院から入手してきたのかな?


奥様 『えっと、これはねえ、ううん、ドイツ語でなんて言うのかしら。
   ムター(母親)、ムター、だから、人間の体の一部で、ええと、
   ムター • • •』  
私  『もしかしてゲベアムター(子宮)のことですか?』
奥様 『そう、それ!とにかくベータ • • •なんとかがいっぱいあって
   ものすごく体にいいのよ。ほら、ここに血管みたいなのがあるでしょう?』


 ええ?それって、本当?いったいどこの誰が献体するのかな?
さっき病院って言ってたからどこかの患者さんで子宮摘出したって
ことかな?病気の人のとかじゃないの?



 その時は深く考えなかった。目の前に仕事が山積みしているときって
判断力がなくなるものだ。先生と奥様と私の3人掛かりでこれを粉末状にして
カプセルを30粒ほど作った。全部手作業。レトロだなあ。


 今、治療中なのは若い小児科のお医者さんの女性。表情にあどけなさが
見えて、少女時代からこんな感じの人だったんだろうなと思わせる
おとなしくて優しそうな32歳だ。
彼女は健康体だ。何事もなければ治療に来る必要もない。だけど子宝に
恵まれない。だからご主人と二人お忙しい仕事の合間を縫って可能な限り
うちにいらっしゃる。(鍼は不妊症にも効果があるのです。)


 不妊症の人に子宮を飲ませるんだ、なるほどねえ。漢方では自分の
病気の臓器と同じものを摂る、という発想がある。肝炎の人はレバ刺しを
食べるとか、足の悪い人は鳥の足を食べるとか。



奥様 『患者さんにはお薬の材料を教えない方がいいんじゃない?』


 うん、うん。焼き鳥屋さんでいちいち出てくる串の解説は要らないのと
同じ原理だね。わかるよ。



 お医者さんの彼女は、(たぶん)自分のもらったお薬がヒトの
子宮だなんて知らないで大事に持って帰った(と思う)。ひえ〜、これも一種の
共食い???



 いや〜、すごい体験しちゃったなっと思って家に帰って家族に話した。



私  『今日ね、すごい漢方薬の材料に出会っちゃったんだよ。』

って事の次第を話したら、突然夫が

   『なんだとおお、そいつは臓器売買じゃないか。そんなもの
   どこからどうやって手に入れたのか知らないが、不法入手に
   決まってるじゃないか。』


 言われてみればその通り。

夫   『綾子よ。よくぞその話をしてくれた。これは一大事件だ。
    綾子も製薬の手伝いをしたとなれば違法行為に加担したこととなる。
    おまえの手が後ろに回ることにはならないことを願っているが、
    とにかくことは重大だ。まずは事実を確認しよう。
    漢方の材料に果たして本当に人間の臓器を使うことがあるものなのか。
    そしておまえの先生が手に入れたブツは臓器そのものなのか。
    ドイツ保険局に問い合わせるという手もあるな。先生には申し訳ないが。』



 大変なことになってきた。夫の言ってることは全部筋が通っている。
中国といえば臓器売買天国だってネットにも載ってるし。規則や法律なんて
歯牙にもかけない人たちばかりだって、よく言われているし。
ああ、どうしよう。先生、そんな恐ろしいことをやってらっしゃったんですか?



• • • • • • だけど • • • 


 ねえ、アナタ、なんかはりきってない?




続きは明日のお楽しみ。 



  

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