2012年11月18日日曜日

心の傷  ②



      


       『私には3歳年上の姉がいたの。死んだの。殺されたの。
      殺人事件だったの。犯人は、ああ、なんてこと、彼女の夫。
      私の義理の兄だったの。』




 私も覚えてる。あれは5年ほど前だったろうか。ローカル新聞は連日一面大見出しで
その家族のことを報道していた。こちらの新聞はびっくりするほど写真をいっぱい出す。
未成年も目に横線を貼ったりしているが、絶対本人確定できるほどの特徴的な写真を公開する。あんなことして冤罪だったらどうするのだろう?(きっとどうもしないのだ。)
罪のない犯人の親戚や同姓同名の人はどうなるのだろう?(きっとどうにもならないのだ。)



 確か、夫はヒステリックな「やきもち」やきでつまらないことで口論になり
奥さんにナイフを向け、のどを搔き切って殺したのだ。同居の家族の目の前で。
同居の家族の • • • 同居の家族の • • • あなたの目の前で!?
プロストさん??




         プロストさん!!!




 『ずいぶん長い間私たちはマスコミの餌食になって世間から注目を浴びたわ。私は
それでもずいぶん頑張ったと自分で思うの。母が憔悴してしまって精神的に大変だったから、そしてうちの父はすでに他界してしまっていたので私が母を支えなきゃと思って
必死だったの。今もまだ公判は終わってはいないわ。
とにかく私に出来るたった一つのことは胸を張って明るく元気に会社へ行くこと。
いつも通りの日常に戻れるように。そうして世間に私たちのことを忘れてもらって
少しずつ心を落ち着かせられるように気を配ったわ。5年かけて。公判のたびに
新聞は私たちの記事を取り上げるけれど、もう一面ではないし記事も小さくなっていく。
あの事件を覚えている人はいても私たちがその当事者だと記憶している人たちも
たくさんはいない。』




『そんな頃よ。私がものを飲み込むときに違和感を覚えるようになったのは。
嫌な予感がしたの。』





(つづく)






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