2013年5月2日木曜日

南の島から来た彼女  ⑬




    微笑みを絶やしてはならない。患者さんはあなたの「機嫌」などに
   興味は無いのだ。スマイルの練習。電話応対。明るい声で正しいドイツ語。
   問い合わせの電話をどうやって「予約」にまで導くか。とてもお高い
   うちの診療&治療費の「案内」をいかに巧みに行って何とか一度試してみよう
   というところまで持って行かねばならない。




 正直、研修の全てが私には陳腐で退屈だ。マクドナルドじゃああるまいし。私は
サービス大国からやってきた日本人女性だ。どこへ行っても最悪のもてなししか出来ない
アンタたちにご講義受けるとは笑止千万。ドイツ人でサービス指導する立場の人は全員
一度は日本に旅行すべきだ。


 私がこんな事思うのは思い上がりかもしれない。でも今日この時間で課される課題を
私は全て難なく満点クリア。私じゃなくったて大抵の日本人でサービス業を経験したこと
ある人なら誰だって優等生だよ、こんなの。私はもともと商売人の娘だしバイト経験
だって豊富なんだから。



 もう一つ生意気を言おう。リードさん、アンタの言う通りにしたって売り上げは
伸びないよ。どうして解らないんだろう 。歯がゆくってしょうがないよ。
うちの病院が上手くいっている理由はひとえに「人間力」だ。うちの先生の
圧倒的なキャラクター。どれだけ長くドイツに住んだってドイツ語がぺらぺらになったってドイツ人の国籍を取得したって、逃れようとしても振り払う事の出来ない大陸の香りと
悠久の中国文化。その魅力に惹かれて人々は集まって来る。こんな事誰にだって出来る事じゃない。中国人なら誰でもがオリジナルの香りを醸し出せるという訳ではない。
医師として腕がいいというだけでなく中国の匂いをぷんぷんさせるという事について
彼は天才的なのだ。もちろん何の努力も無しに。
日本人の私に彼の助手が務まるのはおそらく現代中国が失ってしまった古典の香りを
むしろ理解して素直に尊敬出来るから。日本の漢字はむしろ現代中国語の文字よりも中国古典に近い。中国人の若者の大半は黄帝大経(こうていだいけい、中医学の古典)どころか杜甫も李白も史記も三国志ももちろん読めない、どころか内容的にも何を知っているかかなりアヤシい。ここらへんは日本人だって同じだと思うかもしれないけれど、中国の場合は国策として意識的に古典をぶちこわす教育を行ってきたからね、もっと極端なんだ。


 とにかく小手先のテクニックで価値が計れるなんて、そしてそんなつまんないことを
90万円もかけて説教しに来るなんて信じられない。




(つづく)


            スマイルが大切なのは本当。でもね







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