2013年10月13日日曜日

ハルさんの遺言と裁判   その12

           




         あんまり休む(!)ヒマもなく、ドクターは帰って来た。




                実は綾ちゃんも昨年、ある裁判の証人として法廷に立ったことが
   ある。つまらんもめ事だったので詳細は省くがまさかドイツで法廷に
   立つなんてね。どきどき体験でした。民事のもめ事というのは
   ものすごい数あるらしく三十分単位で裁判が繰り広げられていて、
   裁判所の建物自体が機能的な学校みたいにスケジュールどおりに
   次から次へと裁判が行われていた。
           



 綾ちゃんがいくつか仕事済ませる間に(一時間も経ってない)ドアのチャイムが鳴り
ドクターが帰って来た。あれれ、患者さんも一緒だ。




         
患者さん             『今日は午後の予約だったんだけど、午前中の予定が思いかけず
       早く終わったので、もしかしてこれからお邪魔してもいいかしらって
       下を通りかかったら偶然ドクターにばったりお会いしたんです。
       ラッキーでした。』









     ああ、相変わらずだあ。空手では帰って来ないというか、なんというか。
先生ったら患者さん連れて帰って来ちゃったよ。





                        『 先生、いかがでした?』



    私はこっそり訊いてみる。




               『 ベストは尽くしました。言おうと思っていたことは全て余すことなく
    伝えれたと思います。私はただの証人ですからこれ以上のことは
    わからないんですけどね。』




      私はもう一度ドクターと握手した。






     ハルさんは普通のドイツ人だ。普通のサラリーマンで 大した財産が在るわけじゃない。ご両親から受け継いだ家と土地、老後を過ごすための貯金が少しあっただけだ。
 その程度のお金のことで争わなくちゃならないなんて、なんて悲しいことだろうって
思う。



      裁判は始まったばかりだからこの先どうなるやらまるきりわからない。
でもできるだけ誰かの心が傷つくような結果になりませんように。
特にご高齢でさしたる収入の無いモーリーさんが生活に困るようなことに
なりませんように。










これはサッカー場の写真を撮ってCGを合成しているところですね




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