2013年10月3日木曜日

ハルさんの遺言と裁判 その2





    今日のドクターは私がここに来てからの一年半、私が目にした
   中で一番立派な装いをしていた。





 仕立ての良いスーツに上品なネクタイ。色合いもばっちり。靴もコートも
超一流品なのは一目でわかる。メタボなお腹だってすうっとして見えて
格好いい。やれば出来んじゃん、アンタ、と心の中で茶々を入れる私。




         一張羅というには語弊がある。




 なぜなら彼の普段着も全て本来一流品ばかりだからだ。そう、忘れては
いけない、彼は医者なのだ。





 医療アシスタントの職務内容一般に「アイロンがけ」という仕事が
含まれていないであろう事は私だって承知している。でも私が前任の
カリンさん(仮名)から引き継いだ仕事の中には洗濯、アイロンなどの
家政婦業が一部含まれていた。
うら若きドイツ人女性である彼女には理解不能であったに違いない。
もちろん仕事着とベットシーツなど職場で発生する洗い物のみという
理解で彼女は受け入れたに違いない。(例えば彼女は患者さんの残した
湯呑みは洗ったがドクターの飲み食いした食器には決して手を触れようと
しなかった。)



 でも綾ちゃんはそもそも主婦だしプライドの無い人なので
まず大抵の事は自分で済ましちゃう。アシスタントってのは
もともと「アシスト」するのが仕事な訳で「病院が上手くいく」
ための雑務と理解している。もちろん本来の医療行為のお仕事が
おヒマな時だけだけどね。ちなみに昔、某大企業で働いていた頃も
「秘書」としての業務はある意味似た様なものだった。アイロンは
しなかったけどね。




 話が逸れたがかくして私は時々(月イチくらい)ドクターの
仕事着をアイロンがけする。そして彼のズボンやシャツを一つ一つ
手に取る度に「ソニア リキエル」や「ピエール カルダン」の
タグを前にうめき、悶えるのである。




      信じられない!




 型は崩れ袖はほつれ襟アカには漂白剤ももはや威力を失った
白シャツを前に、




   おお、ピエえ〜ル!!


         とピエールに代わって嘆いてみたり、



チャックの取っ手がはずれ(メタボ腹のせいで大抵少し空きかげん)
本来決して長くないおみ足より更に短い七分丈の(中華風?)ズボンを
前に、



   ああ、ソニアあ〜!!



         と突然ソニアさんのうらめしやの霊を間近に感じたりする。





 っていうか服を捨てられない人の性。っていうか奥様の責任も大きいなあ。





 と、とにかく大体私はそのようなドクターしか知らない訳だ。
だから私の感心度はわかるでしょ。




       

                
              オクトーバーフェストにて
              奥が私と息子



      










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