2014年3月29日土曜日

男と男の物語 九

   




       おそらく綾ちゃんは支店長夫人から「Tさんには気をつけなさい」と
  釘を刺されていたせいでいつもより過敏になっていたのだろう。
  彼女に言われるまでもなく、だいたいこういう状況だと(男同士つるんで
  いるときに女の子が飛び入りすると)男の人はウキウキしたり緊張したり
  とにかく力んじゃうものなのだ。

   だから綾ちゃんはちょっとでも「危険な兆候」が見えたらすぐにでも
  逃げ出そうと思って構えていた。せっかく入社したばかりの会社、
  始まったばかりのドイツ生活を男に騙されたりしてふいにしたりしたく
  なかったのだ。


        ところがTさんはなんというかそういう意味で「空っぽ」な雰囲気の人だった。
  こんな感じの男の人には出会ったことがなかった。食事は美味しかったし
  映画は楽しかった。以上、おしまい。そんな感じ。
  その違和感が去り際の突然の理解に結びついたのだ。




           たいへんだ、と思った。



   つまりそんな風にして彼なりに頑張って女好きのフリをしているからには
  絶対にこのことを誰にも知られたくないに違いない。
  もちろん綾ちゃんだって確信と言っても所詮は単なる憶測に過ぎないのだから
  誰かに話したりする訳もない。

   でも、知って知らぬ振りをするのって • • • 、辛いものがあるなあ。



          

偶然動画サイトで武田久美子さん主演の映画を観た。
彼女がアイドルだった頃しか知らなかったので
びっくりしながらもあまりのハマリぶりに
のめりこんでつい見てしまった。

この世の幸せを全部持ってるんじゃないかと
思えるほど綺麗な彼女が背負っている「不幸」が
あまりにもリアルな良作。でもオトナ向けよ。



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